pachi bkm
最終更新日は08月27日
中の人はなゆた

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生まれた時から、側にいた女の子がいた。彼女は私の半分だった。
渋谷凛。同じ血を分けた妹。一卵性双生児として生まれてから、ずっと私たちは一緒だった。今までも、これからもずっと一緒が続くつもりで生きていた。
冬の海はキンと冷たい。鼻を擽る潮の匂いとさざなみの音に耳を傾けて、手すりに身体を預ける。
黒い海の向こうに見える明るい光。あそこでは船上パーティーが行われていて、たくさんのアイドルがいる。凛も綺麗なドレスでそこに居て、今日の主役としてたくさん笑っているんだろう。
リップを乗せた唇から吐き出される息は白く、煙のように浮かんでは消えた。

「私の世界の中心は、ずっとお姉ちゃんとハナコだったんだ」

深夜一時のことだった。枕を抱えて部屋の扉を叩いた凛は、少し恥ずかしげにはにかんでいた。
凛と一緒に寝るのは小学生の時以来で、昔はセミダブルのベッドでも二人で寝ても大きいくらいだったのに、今はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。同じことを思ったのか、ちょっと狭い?と微笑んだ凛の茶色の髪が流れ落ちる。

「それが変わることなんてないと思ってた」

まるで思い返すような優しい声色。
宝物を並べるみたいに、思い出を語る凛。暗くても透き通るような瞳は、いつも宝石のように輝いている。

「でも変わったでしょう。凛はアイドルっていう道を見つけた」
「…最初は興味なんてなかったんだ。ずっとお姉ちゃんと一緒だったから」

凛の髪を撫でると、気持ちよさそうに目を細められる。私と同じ顔だけど、違う顔。私と同じなのに、華やかで可愛い顔。凛の顔が誰よりも好き。

「アイドルの私を見て、お姉ちゃんが嬉しそうだった。凛、可愛いねって言われたのが嬉しかったよ」

だからちゃんとらアイドルやろうかなって思った。
向かい合う凛と目を合わせながら、原因の一つは自分にあったのかと唇を結ぶ。
凛がアイドルになることは、運命だったのではないかと時々思う。どこか無気力だった凛が、アイドルを始めてから毎日楽しそうに笑って友達も増えて、可愛くなって。私を取り残して、未来を進んでいってしまう。それが寂しい。

「…じゃあ、もしもね?あの時私が可愛いって言わなかったら凛はアイドル続けてた?」
「どうかな。でも今となっては、アイドルが天職なんじゃないかと思うよ」

凛は私が世界の一部だったと言うけれど、私こそ、凛が世界の全てだったし、今でも凛が全てで中心だ。
灰色にくすんだ世界で、凛の澄んだ瞳が道標だった。凛が居たから、迷わなかった。

「ねえ遠いよ、凛」

私の半分は、いつの間にか遠いところに行ってしまった。私たちは二人でようやく一つになれたのに、凛はいつの間にか私がはまるべき半分を埋めてしまった。
凛は一人きりでも一つになって、私はまだ残りを埋められずに半分でいる。凛以外がこの半分を埋めるなんて、考えられない。
私だけの蒼は、気づけば指をすり抜けて消えてしまう。二度と戻れないあの頃は、いつか綺麗なだけの想い出になる日が来るんだろう。早く過去になるように、胸の痛みには気づかないふりをすることしかできない。
私は凛の為のガラスの靴は持っていないから。輝く魔法を掛けるのは私の役目じゃない。だから。
さよなら、私のアイオライト。


ガラスの靴で駆け出す夢の先

141224 なゆた
アイドルマスターシンデレラガールズ;渋谷凛
3rdアニバアイプロ爆死記念
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