たぶんこれも自傷の一つなんだと思う。 ただちょっと、他人からはわかりづらいだけで。 バチンと音がして、じんと熱をもつ患部に、ただ安心してる。この瞬間がたまらなく安心できるから、やっぱりこれは私なりの自傷なんだろう。 「あ、」 ちいさな呟きが聞こえた瞬間、横髪が掻きあげられる。肩口で切りそろえられた黒髪が大きな掌によって上に持ち上げられ、耳元が空気に晒された涼しさに肩に力が入る。 「…また開けたろ」 不満げな声。じっと見つめる先にはわたしのピアス。 外気にさらされた右耳には、七つのピアス。六つが一つ増えて、七になったばかり。 「見た目だけは真面目なのにこんなに開けてどーしたいんだよ」 「べつに、どうも。開けたい欲求があるから開けるだけだし」 英雄くんは幼馴染みたいなものだ。近所のお兄ちゃんで、小さい時はたくさん遊んでもらった。英雄くんは昔から顔だけは一人前に怖くて、弟妹以外に懐いてくれる年下の子はいなかった。けど例外だったのがわたし。ただ一人、英雄くんに懐いた年下の子供だった。 英雄くんにとってわたしは、その時から大切な可愛い妹の一人。わたしが大きくなって思春期で反抗期でも、ひたすらベタベタ甘やかした。どんなにぞんざいに扱っても懲りずに構ってくる英雄くんになんだかばからしくなって、わたしの反抗期はほんの一瞬で終わってしまった過去もある。 初めてピアスを開けたのは中学生の時。英雄くんは大学生だった。 顔の所為でずっと彼女が出来ないことが悩みだった英雄くんに初めて彼女が出来た。その時に気づいたのだ。ああ、わたしって英雄くんがすきだったんだって。そう思うと悔しくてたまらなくて、でも涙はなぜかでなくって。かわりに安全ピンで、衝動的に耳たぶに穴をあけていた。それが始まり。 それからは面白いくらいにピアスが増えていった。 英雄くんの彼女と鉢合わせた時。英雄くんの彼女がお泊りしたって聞いた時。英雄くんが彼女とのデートプランを練るのに付き合わされた時。ほか、エトセトラ。 そのたびにわたしの耳はバチバチと無意味な穴だけが増えていく。 わたしのピアスが増えるたびに文句をいう英雄くんだけど、その原因が自分だなんて到底思ってないでしょう。 「結局今いくつ空いてんの」 「さあ、もう覚えてない。ちぎれてふさいだ穴もあるんだもん」 「うわ、こわ。まじやめろよもう」 「やだよお」 「こら!」 じゃあなんでわたしを見ないのよ。なんであの人ばっか見てるのよ。 ヘドロみたいにどろどろと煮詰められた黒い本音を飲み込んで、ただごめんねと表面だけで笑った。 どこかの誰かが、「傷つくたび増えるピアス」なんて歌っていたけれど、まったくその通りだと思う。 わたしを傷つけて、傷つけて、傷を増やすのは英雄くん、あなただけ。 真珠とピアス 150401 アイドルマスター SideM;握野英雄 |