御伽噺のように


彼女との出逢いは、数ヶ月前。
その時の彼女に柄にもなく、一目惚れをしてしまったのだろう。

俺は、副長の使いで
雪村に団子を買いにきていた。

団子屋から出て行く彼女と金木犀の香りがすれ違うと、

「うわぁっっ!?」

バタッッという音が聞こえた。
後ろを振り返ると先ほどすれ違った彼女が草履の花輪を切らし、転んでいた。

「いったぁ………。」

「もし、大丈夫か?」

普段であれば気にはしないのだが、雪村の影響を受けたのか、気になってしまった。

「あ、はい。」

懐から手拭いを出し、引きちぎる

「応急処置にしかならないが。」

「す、すみません!?見ず知らずのお侍さんにこんなことまでさせてしまって!」

「いや、気にするな。」

「御礼といってはなんですが、そこのお団子屋さん美味しいんです。今買ったばっかりです。幸いにもお団子は無事なのでお持ちください。」

「いや、受け取るわけには」

「はい。」

半ば強制的に握らされてしまった。

「かたじけない。」

「私がお世話になったのに、可笑しな事を言うんですね。貴方みたいなお侍さん初めてみました。」

では、と街中の人の中へと消えていった。

以来、茶屋に通うようになった。
通ううちに、意外にも彼女はちょっと抜けていることがある。が、芯はしっかりとしていていた。

あの日も、いつものように顔が見れたら、と思っていた。

「あ、斎藤さんこんにちは。」

「苗字。久方ぶりだな。」

久しぶりに見た彼女の顔に自然と顔が綻ぶ。彼女の苗字も知ることができた。

「お久しぶりです。お仕事が忙しいんですか??」

「あぁ、だが昨日で大方片付いた故、茶を飲みに来た。」

「それは、お疲れ様です。」

お互い多くは語らないが、
悪くはないと思っていた。
だが、彼女からは…
「今日で、ここに来るのは最後かもしれません。」

己の肩が揺れた。
気持ちを悟られたのだろうか、俺が毎回来ることに嫌気が指したのだろうか。

「なにか、してしまったのだろうか。苗字。」

らしくないことを聞いていた。

「いいえ、貴方みたいな人がいるなんて世の中まだまだ先が見たいと思いました。」

遠くを見つめる彼女に

「それは、どういう…」

動揺を隠せない。

「いつか違う形でお会いするでしょう、新選組の斎藤一さん。」

彼女に一瞬で逃げられてしまった。しかし、俺の名を知っていたということは、敵…なのだろうか。

俺たちに縁という言葉があれば
いつかきっと。と、御伽噺のように会えると願いたくなった。
しかし、俺は新選組の剣。

彼女を殺めるなら、

俺が必ず。




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