遠雷


 大きな雨粒がうるさく地面に落ちる。まるで砂嵐の音のような、激しく荒々しい音で雨粒が落ちる。風が吹いて窓を叩く音もする。
 声も、泣きそうな喘ぎ声も、吐息も、謝る言葉も、交わる音も、空間の音も、床の軋む音も、何もかもが掻き消されて、何もかもが聞こえない。
 キスの間の水音だって、ずっと言えなかった好きだなんて戯言だって、聞こえない。もしかしたら聞こえていたかもしれない。もしかしたら聞こえないふりをしていただけなのかもしれない。
 好きな人と二人きりで過ごしているのに。好きな人とキスだってセックスだってしているのに。嬉しくて嬉しくてたまらないはずなのに。雨が全てを流していく。感情も、理性も、普通に交わすつもりだった普通の会話も。
 両手で覆われた顔がどんな顔をしているのか、どんな表情を作っているのかわからない。笑っているのか、獣欲に溺れているのか、それとも泣いているのか。その両手を、その両腕を剥ぐことなんて簡単に出来て、表情なんて簡単にわかるはずなのに。
 額の汗が頬を伝い落ちて、腹の上の精液と混ざる。へそに溜まった愛の印だなんて、こんなことをなんでこんなときに思えるんだろう。そんな自分に嫌気が差してくる。
 遠くで雷の音が聞こえた。大雨はまだ止みそうにない。


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