三成を裏切り、長いこと経った


自分の軍には、それはそれはもう一途で、すごく根の良い輩ばかり

絆絆と餌付けておけば、大抵は皆、ついてくるものだ


そんな軍の中、儂が特別気に入ってるやつがいる


「家康様」


と、名前を呼ぶ声が、どれだけ離れていようと耳に甘い刺激を残す

執務をこなしている時、後ろで正座をしている彼の視線を意識せざるをえない


「朝餉にございます」


名前は、いつも冷めている顔をしている。

儂よりいくつか歳が上であり、顔は綺麗と言うより凛々しくたくましい。

足軽には無情に見えるらしいが、そんなことでは決してない



「…どうかなされましたか」



よく見ろ、名前の目にはこんなに色に満ち溢れているじゃないか。

儂が笑顔をかざして、無言で彼を見つめていると、ほら、羞恥の色に塗られて視線を逸らす

なんでもない、と返事をすれば少し心配そうにこちらをうかがう。


儂を心配するその眼。信じているんだ。

儂を信じ、儂のためなら命も身体も自分のすべてを捧げんと語る


そんな純粋な瞳を見る度、身体が歓喜に震え、脊髄が弦のように弾かれる


綺麗。綺麗なんだ。見ているこちらが狂うほどに。



「家康様」


先程とは少し気が張った声。

どうしたんだ、と声に出すとどうやら自分は興奮して息を荒くしていたようだ。

ああ我慢ならない。彼から儂をなくせば、何が残るのだろう。



「名前」


ほら、こっちおいでと手招きをすれば少し困惑した顔を見せ、儂の目前まで来る

その迷いのない行動に鳥肌が立つ。



「どこか、調子が悪いのです―」


か?、と終わる前に名前は鈍い音と共にその場でグラつく

口を切ったのだろう、手の甲で下唇を抑えている


顔を上げようとするが、その前に彼を畳に押し倒し馬乗りになる。

それで後頭部を打ったのか、小さな呻き声が聞こえた。



「い、いえ―」


ばきり、ばきり、と名前の言葉を遮ってまで拳を振りおろす自分は一体どんな顔をしてるんだろう


数分後、少し気が落ち着いたため、手を止めた



「…家、康…様…?」


何が起こったんだ、と目をぱちくりさせて儂を見る

なんでもないよ、と答えるように彼の鼻から流れる血液を舐めとって吸う


「いい色だな、名前」


はい?と名前は自分の痛みより混乱の方が勝っているらしく、唖然としてるだけ


「家康様…これ、は、一体…」


「名前」


出来る限り優しくつぶやいて、彼の首に手をかざす



「儂、もうお前のことは必要ないぞ」


「…へ?」


「いらない。だから、捨てる」


「な、何を…申、され、て」


「出てってくれないか」


泣くな、と血交じりの涙を吸い取り、その後は血まみれの唇に吸いつく


「冗、談は…よしてください」


「冗談だと思うのか」


そうか、と一振りすればたやすく折れるものだ

下から啜り泣く声がこれまた可愛らしいもので






西から日が昇った

(ほらほら)
(泣いてる暇があるなら、早く、おかしくなって)



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最近頭の中が変態的な家康で一杯になった結果の一部

20111212


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