※エロなので18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください















教師としておかしいことをしているという自覚はあった。だけれどその誘惑は簡単に抗うには甘すぎる。壁に這う蔦が華奢な見かけを裏切って丈夫なように、八神太一の細い腕にも振りほどけないだけの力があった。
「明日、ひま?」
小学校のテストはいやに贅沢だ。A3の大きな用紙に並ぶ写真や絵。図解が必要な理科だけでなく、文章ばかりの国語にさえ極彩色の挿絵が付いている。
その隅っこのフリースペースに、小さな一言が書かれている。ささやかな誘い。八神からの。指でなぞるとじんと痺れたような感覚。
俺はその文を消して、白い空欄に大きく丸をつけた。

最近は四時にもなるともうすっかり日が暮れてしまう。秋の日は釣瓶おとし。八神は昇降口の前の学級花壇を眺めていた。いつのまにかベゴニアからコスモスに変わっていて、澄んだ風にゆっくりと揺れている。俺が近づくとあの爆発頭が上を向き、焦げ茶の目が赤い夕日に輝いた。手を伸ばしてくるから、握る。小さな手は指の中にすっぽり収まってしまう。


夕暮れはすぐに終わり、完全に日が落ちる前の真っ青な空気が商店街を包んだ。俺達は、別段かくれもせずに堂々と歩いている。八神がにこにこ笑って軽快にスニーカーを踊らせる。ぴょんぴょん跳びはねたり、たまに抱き着いたりして。俺は八神のさせたいようにしてやるし、八神も嬉しさを隠そうとはせず、幸福な笑顔を振り撒いている。通りすぎる老婦人が盛大に相好をくずしていた。たしかに、見ているだけで幸せになりそうな光景だ。


「あっ、もぅ……っ、!」
八神。俺の下で苦しげな息を吐く体は、小さい。腕は棒っきれみたいで胸なんかプラスチックの下じきのようにぺらぺらだ。かわいそうだ。こんな小さなくせに。でも俺は行為を止める気もなくて、深々と腰を使う。
「アッ! っ、いた、あ……」
足がぴんと突っ張って、そしてすぐに俺の背にからまった。おい、言動不一致だぞ。何がしたい。八神。うっすらと開いた瞳から、透明な涙。
「……やめんなよ、藤山」
俺はそのつりぎみの目から視線を放せない。お前ってやつはどうして、小学生のくせにそんな顔ができる。
挑発的な笑顔を浮かべてみせる八神に、俺も応えて動きを激しくする。藤山、と八神は高く叫ぶ。悪ガキらしく教師を呼び捨てにする八神。職員室で没収された玩具を取り返そうと腕を振り回す八神。授業中に窓を眺めて、たまに何かを悟ったような顔をする八神。
小学生のくせに。俺は汗みずくの体を抱え上げる。騎乗位にしてやる。お前の好きな体位だろ、そうだろ。八神は苦しそうに、でも腰を振り出した。馬鹿。いや馬鹿なのは性犯罪者の俺のほう。自覚したところで止まるわけもないが。
藤山、と八神が叫ぶ。まるで取り縋るような調子で。


終わると八神はだるそうに立ち上がり、すたすた歩いてシャワーかなんかを浴びにいく。妙に慣れてるところが怖い。そういやもう何回目だっけな、と指折り数えて、片手を丸めたところであほらしくなってやめた。
小学生がこんなことすんな。泥にまみれてサッカーしてろよ。
今度こそ言ってやろうと思う。しかし言ったところで、その相手をしている俺としては説得力のかけらもない。八神がにやにや笑う姿が目に浮かぶようだ。
オッサン、あんたとやってるほうが楽しいよ。あんたもそうのくせに。
クソガキ。俺はタバコを探して起き上がり、枕元に灰皿と一緒においてあるのを見つけて驚いた。いつの間に。シャワーに行く前にでも置いたのだろうか。顔をしかめた。気がききすぎる。
こんなふうに、あの子供は、歳のわりに信じられないくらい大人びている。だからこんなことをしていてもあまり罪悪感がないのかもしれない。昼休みにグラウンドを駆け回るのと同じ足を、くたびれたせんべい布団の上でしなやかに伸ばして誘う。変な奴。変な子供。変な教師。変な関係。
でも俺と八神は、それなりに充実した間柄にあると思う。お互いに幸せだし、やってるときは気持ちいいし、周囲にはおそらくバレてないし。モラル的にはいまいち、どころじゃないが。
「おい、オッサンどけよ」
八神が帰ってきた。湯気の立つほかほかの体で、タバコを手に遠い目をしていた俺に蹴りをくれる。立ち上がって部屋の隅に移動すると、手際のいい調子でするすると布団からシーツを取り上げて洗濯機へと運んでいった。
いつも後片付けをするのは八神だった。部屋を借り物にしていることへの、奴なりの気遣いらしい。俺はため息をつく。本当、お前って実は何歳だよ。


とにかく八神が俺の家に来るのは、目的としてはほぼやるためだ。いつもは夕ご飯を一緒に作ったり風呂に入ってから行為に及ぶのだが、今日は早々にやってしまったためなんだか手持ち無沙汰になる。俺はだらだらとタバコを吸い、後でコンビニに行って飯を買うかなとおぼろげに算段をつける。冷蔵庫には何もないし、何かつくる気力もない。田舎から送られてきた米だけはある。電話口で早く嫁さん貰え、と口癖のように言われるのを思い出して苦笑した。それは当分、先のことになりそうな話だ。
八神は、俺がぼうっとしているうちに適当な雑誌に目を付けてごろりと寝転がっていた。よっこらと立ち上がり、そばで新しく布団をしくとすかさず抱き着いてくる。茶色い頭がシャツに埋まる。隙間もなくぴったりと合わさる。
そのときに、なんだか甘い香りがした。シャンプーか何かだろうかと思っても、それとは少し違う、胸元で膨らむみずみずしい匂い。
「おまえ、なんかいい匂いがする」
と言うと、八神はいたずらっぽく笑い、
「だって、あの花壇のコスモス植えたの、俺だもん」
担任教師が花壇当番のローテーションを覚えていなかったなんて、馬鹿な話だ。八神は俺の胸の上で丸くなる。日差しを浴びた洗濯物の温かな感触。俺は目を少し閉じた。



2008 10 27

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