『FaCE』 p1/p6



事切れる「私」の音がする。
「私」はどこか遠くから、「私」が壊れる様を聞いている。
消える。
…ああ、やっと消えることができる。
「私」が薄れていく。

違和感。
心の奥から何かが生まれる感覚。



消える?
消える……?





────「あたし」は、消えない。










震える手を押さえながら、私は1週間ぶりに教室の扉を開けた。

一歩足を踏み入れたその瞬間、違和感が襲った。
それは、好意でもない。かといって憎悪でもない。
それは、恐怖に近いものだった。
松葉杖を使ってゆっくりと席に向かう私に唯一近づいてきた紗英子──高原紗英子も、その笑みはどことなくぎこちない。

「は…悠おはよ」
「うん」
「あ、荷物とかそれとか持つよ?平気?」
「えっと…これ、持っててくれる?座れば何とかなるから」
紗英子に松葉杖を渡し、慎重に腰を下ろして一息ついたときふと、思った。

…おかしい。
今日の私は、随分と普通だ。私の持ち物も使用場所も、他の人と違いない。


いつもなら、もっと…──


「──…悠?」
「……あ、ごめん…何?」
「ううん、なんかぼーっとしてるみたいだったから」
そう言う紗英子の瞳には心配の類の光が浮かんでいる。
「ごめん。ただ…ちょっと、変だなって思っただけ」
「そっか…ならいいけど」
紗英子は、俯いて大きく息をつく。そしてまた私を見た。


「ねえ……悠は、悠だよね?」
「…何言ってんの、あたりまえでしょ」


言葉と共にチャイムが響いて、会話は遮られた。






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