『イロニー・パレイド』 p1/p4


手にはパンフレット。
それに書かれている校内の地図を頼りに、あちこちを巡っていた。
文化祭らしく、あちこちに着ぐるみなどを着た高校生を見かける。
段ボールやきらきらしたモールを切り貼りした装飾が廊下や教室を彩っている。

凄く、エネルギッシュ。

そんな感想を抱きつつ、自分――梨乃は学校中に溢れる高いテンションに影響されるような足取りで進んでいた。
この文化祭では、文芸部やイラスト部が部誌を配布している。
記念に一冊、と思ったのだ。

ふとパンフレットから顔を上げると、久しぶりに見る知った顔だ。
遠慮がちに宣伝用の看板を掲げた、キャメル色のベストをYシャツの上に着た制服姿。
彼女に駆け寄って、話し掛けた。

「奈々先輩!」
「あ、梨乃ちゃん! 久しぶりだね」
「ですねー。つか先輩、高校でも文芸なんですか」
「まぁね。だって私絵が描ける訳じゃないもん」
「吹部もいーじゃないですかー」
「もっと無理だよ、それ」

先輩――奈々は苦笑している。
理由は梨乃にも分かるが。

「強いんですよね、吹部」
「そーだね。県のコンクールを一位とか二位とかで通過したとかって、去年壮行会で聞いた」

その分練習も大変みたいだよ。何か…確かこの前歌ってた気がする。
呼吸法みたいなものなのかな。
生真面目に看板を胸の前で掲げたまま、奈々は言う。

「やっぱり凄い努力ですねー…そうだ、先輩」
「ん?」
「部誌残ってますか?」
「ああ、まだあるよ、こっち。梨乃ちゃん、ついでにちょっと話そーよ」

そう言い、奈々は笑いながら梨乃を手招きした。
今までの教室棟よりは落ち着いた雰囲気である、特別棟(通称B棟)のうちの一教室へ、連れ立って行く。

「どーぞ、お客様?」

店名と飲み物のメニューを書き、ハートや星型に切り抜いた画用紙を貼った小さな黒板。
その横で、奈々が完璧に気取った動作で中を指す。
自分は後輩だから正直反応に困るのだが。


20120712


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