心臓を返して欲しい
心臓を返して欲しい



どきどき、どきどき。

銀さんを見る。
銀さんの事を考える。

たったそれだけで、僕の心臓はまるで別の生き物のように大きく脈打つ。

それだけならまだいい。

最近の僕はほんの些細な事で銀さんが心配になり、心臓はぎゅっと締め付けられるように痛んで苦しくなる。


「銀ちゃん、遅いアルナ…」

「きっともうすぐ帰ってくるよ」

ぎゅう。

言葉とは裏腹に、締め付けられる僕の心臓。

前はこんな事なかったのに。
いつ帰ってくるか、わくわくしながら待ってたのに。




「たでぇまぁ」

結局、銀さんは神楽ちゃんが寝たしばらく後に帰って来た。

「あれ、まだ帰ってなかったのか。もう遅いし泊まってけば?」

帰ってくるなりいちご牛乳を求めて冷蔵庫に向かいながら軽く言う後ろ姿にイラッとする。

僕はアンタが帰ってくるまでずっと心臓ぎゅうぎゅうさせて待ってたのに、何だその言い草は!

「アンタの事待ってたんでしょうが。遅いから心配したんですからね!」

「わりーわりー」

いちご牛乳を手にすると幸せそうに飲み、ソファでくつろぎながら適当に謝られる。

ぷつん。
僕の中で何かが切れた。

「もう、なんで銀さんはそんな適当なんですか?!こっちはアンタのせいでどきどきぎゅうぎゅう大変なのにっ…!」

「は?どきどきぎゅうぎゅう?何だそりゃ」

「銀さんの事を考えると心臓がどきどきうるさいんです!しかも最近はそれだけじゃなくて、すぐ銀さんの事心配になって、ぎゅって痛いんです。僕の心臓。もう本当僕のじゃないみたいで…返してください、僕の心臓!」

止まらなくなった言葉を銀さんにぶつけると、銀さんは飲みかけのいちご牛乳を溢した。

「わ!ちょ、何してんすか!」

「お前…それは愛じゃなくて?」

「…は?」

いまいち銀さんの言っている事が理解できない。
あい…?愛って…あの愛?

「恋してんのよりももっと俺の事好きなんだよ。だから些細な事でも心臓が痛ぇくらい心配になるんだ。そういうのを愛って言うんじゃねぇの?」

「愛…」

「俺もそうだ。お前の事愛してるから、どんな些細な事でもすぐ心配になって心臓痛くなって…俺の方こそ心臓返して欲しいっつの」

なんだ、銀さんも一緒なんだ。
僕だけじゃないんだ。

そう思った途端、さっきまでぐちゃぐちゃだった気持ちが一気に鎮まった。

「銀さん」

「ん?」

「愛してます」

いつのまにか終わっていた恋。
その代わりに芽生えていた感情を口にするとなんだかくすぐったくて、僕の心臓が今度はじわりとあったかくなった。





end

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