もう一度 名前を呼んで


いつから、そんな風に考え始めたのか。
それとも、最初からそう思っていたのか。

「もう、わかんないよ…」

玄関先に立って、一人呟く。
待っているのだ。銀さんを。
もう、自分ひとりの胸に閉まっておくには感情が大きすぎて。
だから、銀さん。
アンタに答えを出して欲しいんだ。

もうすぐ帰ってくるだろう、彼を待って一人立つ。そう待たない内に、銀さんは帰って来た。

「…新八?」

玄関の引戸を開けた途端、驚いたように銀さんが名を呼んだ。

「こんなトコでなにしてんだ?」
「銀さん」

僕の真剣な声に、銀さんが脱ぎかけたブーツを戻す。

「銀さん、僕達の関係って何ですか?」
「関係って、お前…」

好きだと言ったのは僕だった。
それに応えてくれたのは、銀さん。
アンタだったじゃないか。

「恋人、だろ?」
「本当に?」

だったらどうして、キスの一つもしないのか?

「僕に付き合って、そう言ってるだけじゃないんですか?」
「ちょ、待てよ。新八。話が見えねぇ」

ガリガリと頭を掻いて、銀さんが一つ息を吐く。

「だって、僕に何もしないじゃないですか!?」

好きなら、そういうものじゃないんですか?

僕の言葉に銀さんが視線を上げた。
まだ玄関にいるせいで、視線は真っ直ぐぶつかる。

「俺だってわかんねぇんだよ…」

掠れたような、小さな声が答えた。

「何がですか?」
「お前の想いが、憧れなのかそうじゃないのか…」

憧れ…、僕は無意識に呟く。

確かに最初は憧れだった。でも、それ以外の所も含めて好きになったんだ。
一緒に生活して、駄目な所も良い所も知って。

それで、好きになったのに。

「…疑ってたんですか?」
「疑うとか、そんなんじゃねーよ。お前が大事だから…迷ったんじゃねぇか」

大事?

「憧れなら、俺は手なんて出せない。勘違いで、お前を傷物になんて出来るかよ」
「そんな事…」

大切だから、手が出せなかったなんて。そっちこそ、勘違いも甚だしい。

「ちゃんと、気付いてくださいよ!」
「新八…」
「アンタなんか、マダオで糖尿寸前で三十路前で…憧れだけで好きになれる訳ないでしょ!」

一気に言い切って、銀さんの胸元を掴む。

「こんな関係、終わりにしましょう…!」

胸元に額を付けて叫んだ。
勘違いだらけの、偽りの恋。
僕が欲しいのは、そんなんじゃないんだ。

「…新八」

銀さんの声が上から降ってくる。

「僕が好きなら、今度は銀さんが言って下さい」

驚いた気配が、直に伝わってくる。

「最初からやり直しましょう?」
「…そうだな」

銀さんが安堵したように、小さく笑った。

「ね?」

だから、今度はアンタから言って。
もう一度僕の名前を呼んで。
好きだと言って。
それから新しい恋を、始めよう。




END



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