真広
No.2『ゆい様→真広(連載番外)』
地面を揺らし生まれるように現れる果実を若干慣れた瞳で追う。
ため息がこぼれる現実をまだ簡単に受け入れられそうにないけれど。
「どうしたんだよ」
「ああ、真広くっ……?」
隣にいるのは吉野だと思っていた。
ごく自然に近くで声をかけられ、体がこわばった。
「何だよ」
「えと、な、何でもないよ?」
「……」
「ごめん、そんなつもりじゃ……」
「そんなつもりってどんなつもりだよ」
口では勝てない。
力でも勝てない。
頭なんて以ての外。
彼に勝てる要素が何一つない。
その現実が何だか寂しくて、同じくらい嬉しかった。
「……真広くん。ちょっと話してもいい?」
「まあ、時間あるしな。暇つぶし程度になるなら好きにしろよ」
ハードルが高い気もするが、たまにはゆっくり話をしてみたかった。
「真広くんは私のことどう思ってる?」
「鈍くさい」
「……」
「素直に答えてそれかよ」
「少しは気を遣うとかしてくれないの?」
「お前は気を遣わなくていい相手だから楽なんだよ」
今の言葉は少し喜ぶ部分かもしれない。
変に気遣われても居心地悪いに違いない。
それにしてもストレートすぎる。
「じゃあ、お前は俺のことどう思ってるんだよ」
「え?」
「何驚いてんだよ。俺だけに言わせたのかよ」
「えと、じゃあ……」
ストレートに思いを伝えることなんて当然できるはずもなく、当たり障りのない解答を必死に探す。
そんなに頭が良いわけじゃないし、頭の回転も速くない。
となってくると、自然と言葉は限られる。
「歪んだシスコン?」
「殴られたいなら、素直にそう言えよ」
「そういうつもりじゃないから、手を上げないで!」
「普通に怒るぞ、そんなこと言われたら」
「えと、素直じゃない妹思いなお兄ちゃん?」
真広は大きなため息をついた。
何を言っても無駄だと思ったのかもしれない。
呆れられたのかと思うと心に冷たい風が吹く。
思わずうつむいてしまった頭に優しい手のひらが乗った。
「真広くん?」
「俺と愛花、お前にはどう見えてた?」
「どう……。仲のいい兄妹だと思ったけど?」
「そうか」
「うん。羨ましいって思った」
それは『どっちが』だろう。
自分で言っておきながら、悩んでしまった。
真広はそこに突っ込んでこなかった。
それは彼なりの優しさなのか、たまたまなのかわからない。
「ねえ、真広くん」
「今度はどんな話だ?」
「この世界は終わったりしないよね?」
「終わらせねえよ。愛花を殺した犯人を見つけるまではな」
「……そう」
相変わらずどこか難しいのは、愛花の『兄』だからなのか。
本当によく似ている兄妹だった。
他の人が見たら、全然違うと言いそうだけれど。
彼女の瞳には、確かな兄妹に映っていた。
――世界は君を待っているよ、真広くん。
(2016/09/09)
再up 2017/09/16
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