青い青い空。
眩しすぎる輝きに、レアルは手を翳して、自らの顔を遮った。
二週間前に渡された仮面は、まだ馴染まない。
顔にある違和感、問題ないとは言え制限される視界、自分を失うような恐怖。
投げ捨てたくなる自分の『顔』。
「レアル、どうした?」
「あ、えと……」
「緊張しているのか?」
目の前に立つのは、ウィンドルの現国王。
威厳あるその男性は、レアルの前で優しく微笑んだ。
自らしゃがみ、安心させるようにとレアルの金色の髪を撫でる手は、大きくて温かい。
「うん……あ、はい」
微笑みをそのままに、国王は立ち上がり歩き出した。
慌てて大きな背中を追いかける。
「あ、あの……」
「レアル」
「はい」
「頼んだぞ」
王が口にしたのは、とても短いたった一言。
軽くて重い言葉。
その言葉を心で何度か繰り返して、大げさすぎるほど頷いた。
シンプルに厭味なく装飾された扉を眼前にすると、心臓が痛いほど緊張しているのがわかった。
側に立つ兵士が敬礼して離れる。
扉を叩こうとする手が震えて、消えそうに小さな音しか出ない。
「はい」
室内から聞こえてきた声に、ビクリと体が大きく震える。
相手がそこにいることも、自分がしなければならないことも、全部わかっているのに言い様のない不安が漠然と立ち塞がった。
「誰?」
「私だ」
震えるレアルに代わり、国王が返事をする。
その現実にレアルはまた震えた。
「父上、どうされたのですか?」
静かに扉が開き、顔を出した少年。
レアルと同じ年頃……いや、同い年の王子。
彼は国王を見たあとで、レアルへと視線を移す。
「君は誰?」
「あ、あの、ボクは……」
逃げ出したくなる身体。
レアルの肩に国王は手を置いた。
大丈夫だと言うように、がんばれと応援するように。
「あ、あの、ボクの名前は、レアル……です」
「レアル?」
「えと、今日から、リチャード殿下の護衛騎士を務めさせていただきます」
何度も何度も練習した言葉を言い終え、レアルは少し肩の荷が降りたように感じた。
リチャードは国王に説明を求める。
レアルに興味を示すことなく、あっさり視線を逸らされた。
レアルは仮面をつけていて、うつむき気味だったのだから、仕方ないのかもしれない。
「こんな子どもが、僕を守るというのですか」
僅かに不満を表したリチャードの棘を纏った言葉。
同じ年齢なのに子ども扱いされるなんて、不愉快だ。
相手は王子なのだから、レアルは寸前のところで溢れそうな文句を飲み込んだ。
「リチャード、そう言うな。レアルは同じ年だ。お前の話し相手にもなってくれるだろう」
「……父上がそうおっしゃるのでしたら」
納得できないと言外に言いながら、リチャードは渋々頷いた。
向けられる視線が冷たい。
レアルも似たような目をしているのだから、おあいこかもしれない。
「私はもう戻らなければならない。レアル」
「は、はい!」
「どうか、この子と仲良くしてやってくれ」
「はい!」
国王がその場からいなくなれば、レアルはすぐさま逃げたくなった。
空気が気まずすぎる。
「……入ってよ」
「はい」
扉が閉まれば、世界から隔離された気がした。
リチャードから放たれる警戒心は、痛いし、苛立ちを覚えるし、とにかく不快だった。
「あの、殿下……?」
「僕が認めるまでは、君は騎士以下だからね」
「はい」
「話し相手以下だからね」
「はい」
偉そうに見えたリチャードは、フッと表情を緩めて、レアルの前に手を出した。
「僕の名前は、リチャード。よろしく、レアル」
「よろしくお願いします、殿下」
これが、レアルとリチャードの出会いだった。
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