紫外線が一番強いと言われている時間帯。
とにかく暑く重苦しい空気が辺りを支配する時間帯。
口には出さずに暑い暑いを何度も繰り返しながら、マリアは歩いていた。
鞄の紐を掛け直し、足を速める。
外へ出たからには、早く用事を済ませるに限る。
暑い陽射しを浴び続けるよりも、屋根の下へ入りたかった。
「姉さん、こんなところで何をしているんですか?」
市の図書館から出てきたヒューバートとばったり出会ってしまった。
別に悪いことをしていたわけではないのに、何となく嫌な汗が流れる。
「買い物。来週実習で使うものがなかったの」
「……来週って、明日ですよね?」
「……」
弟に叱られ慣れる姉というのは複雑だ。
ヒューバートはこの暑い中、冷たく見えるため息を吐き出した。
「付き合います」
「え?」
「姉さんを放っておくと、本来の目的を忘れて帰ってきたりするじゃないですか」
「……監視ってこと」
「まさか」
そう言って、ヒューバートはやけに嫌味な笑みを見せた。
まるで、自分の姉を見下すような。
けれど、マリアは知っている。
本当は心配してくれているということを。
相変わらず素直じゃない弟だ。
そこが可愛いのだけれど、そんなことは言えない。
「ありがとう。じゃあ、頼むね」
「それで、どこへ行くつもりなんですか?」
「駅前のショッピングモール」
ヒューバートは一瞬嫌な顔をした。
商店街ならともかく、駅前のあの辺りを一緒に歩くことに抵抗があるのだろう。
「無理に付き合わなくていいよ」
「いえ。ぼくが言い出したことですから」
本当に相変わらずだ。
くすりともれた笑い声にヒューバートは難しい顔をする。
「……何か?」
「何でもないよ。行こっか」
わざと勢いをつけて、ヒューバートの腕にくっつく。
図書館から出てきたところだったヒューバートは、マリアよりもひんやりしていて心地よかった。
すぐに怒鳴り声が飛んでくるのだが、それまでそのひんやりにくっついていた。
はちみつスカッシュ2011/07/12
加筆修正 2013/09/18
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