憂鬱なお嬢様


白地に薔薇が描かれたカップ。

中身は少し冷めた紅茶。

それを手にシャロンは何度かため息をついている。

話を聞いてほしいと言わんばかりのため息。

ディオはティーポットをテーブルに置き、声をかけた。


「お嬢様、どうされましたか」

「ディオ!」

「は、はい」


意外な大声に驚き、声が上擦った。

シャロンはそれを気にする事なく、ため息と共にカップを降ろした。


「実は、聞いてほしい事があるんです」


手を頬に当て、悩ましげな表情を見せる。

一体何が彼女をそうさせているのだろう。


「私でよろしければ、聞かせて下さい」

「そう言って下さると助かりますわ」


うっかり彼女の罠にハマってしまったのだろうか。

先ほどまでの空気はどこへやら。

眩しい笑顔は、何やら色々含んでいた。


「……それで、何を悩んでおられたのですか?」

「退屈なのです」


その顔は退屈そうではない。

むしろ、新しい玩具を見つけた子どものように、瞳を輝かせている。


「あの……お嬢様?」
 
「退屈凌ぎに、くじを作ってきたので、是非」


ぐっと差し出された手には白い細い紙が数枚。

自分に拒否権はない。

一枚の紙を彼女の手から抜き取った。

その紙には『ブレイク』と書かれていた。
 
さすがにそれだけでは、何の事だか分からない。


「あの、これは……」

「ブレイクですか。あんまり面白くないですね」


ふぅ……とつかれたため息は、今までと色が違った。


「詳しく聞かせて頂きたいのですが」

「今日から一週間、ディオはブレイクの口調で話して下さい」

「……はい?」


シャロンが言う『退屈凌ぎ』とディオがブレイクの口調で話す事に、何の繋がりがあるのか。

ディオの瞳がそれを尋ねていたのだろう。

シャロンは微笑んで答えた。


「楽しいからです。本当はもっと別の方だと面白かったのですが」


残念ですと言葉を続けるシャロンにディオは何も言えなかった。


「お茶をいれ直して下さい」

「はい、分かりました」

「ディオ」

「そう言われましても……」

「ディオ」

「……」


改めて口調を真似しろと言われても、急には無理だ。

期待の眼差しを向けるシャロンの前で、昨日話をしたブレイクの事を考えていた。



up 2009/06/10
移動 2016/01/23


 

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