前回(カズケン←サク)の追記というか二人の出会いを妄想してみたり。
コイソとサクマだもの。席近くから仲良くなったんだ!って一度は思いますよね(笑)
最初は出会いを小学生にしようと思ったんですが佐久間くんがスレ過ぎて中学生になりました…。
健二さんかわゆい。いじめられそうになってたのを佐久間きゅんがガード!その全てに気が付いてない健二さん!が裏設定です。
あいつと会ったのは中学校の時だった。
寝癖頭にぱっとしない表情、オドオドと周りを俯き気味に様子を伺いながら宛がわれた席へと危なっかしい足どりで歩いて来る。
ちなみに俺はというと、入学式が終わって早々クラスの席に座っている訳なんだが。
俺の前の席の奴はまだいない。コイソというらしい。
その女々しい奴は何回か座席を確認すると安心したように椅子を引く。
…おっと、前の席って事はこいつがコイソくんか。
声でも掛けようかと思ったけど、なんというか、余り関わりたくない。
厄介事を運んで来るタイプだ。
まぁそんな義理もない訳だし、『小磯くん』とやらを頬杖ついて眺める事にした。
「小磯くん、」
朝のHRが終わり、一時間目の準備の時間。
未だ小学生気分でクラスメイトに誰彼話し掛ける奴は勿論そいつにも話し掛ける訳で。
しかしなんとまぁそいつは「え、」だの「あ、うん」だの、気のない返事しかしない。
え、俺は笑顔でテキトーに合わせてるけど。
観察を続けていくつか分かってきた。
中学生になって何日か経つけど、小磯くんとやらは気が付けば集団にいて歯切れ悪い返事と曖昧な笑顔を浮かべているか、席で数学の教科書を読んでいるか。
そのどっちかだ。
…後ろから観察していて気付いたんだが、彼は数学の教科書をめくって面白そうな問題(俺には面白そうな問題とやらが理解出来ないが)を見付けるとぱっと顔を明るくして楽しそうにペンをノートに滑らせ始める。
(何時もそんな顔してれば友達もすぐ出来るだろうに)
でも、俺は地味にそいつが問題を解いている姿を見ているのが好きだったりする。
寝たふりして周りをごまかして、数字を書いてる音を聴いていると周りの世界がシャットダウンされたような感覚になる。
まるで雨の中のような隔離された世界。
(俺が聞く事に集中し過ぎてるだけだと気付いたのはずっとずっと後だ)
まぁ、特に関わる事もないだろうと思ってたんだけど。
親睦を深めるだのなんだのでオリエンテーションが始まった時だった。
男女混合、男子ハンデありとなんとも優しいルール付きのドッジボール。
テキトーに来たボールをキャッチして近くにいる外野に回すという繰り返し作業をしながら、キャーキャー動き回るクラスメイトを眺める。
そういえばあいつ、トロそうだよな、とふと過ぎった思考に敵チームを見れば、目立たないのかなんだかんだで隅っこに残っている小磯の姿があった。
見ればスッゴくキョロキョロしている。あからさまに挙動不審だ。
狙って下さいと言ってるのか…なんとまぁ。
呆れて見てたら後ろから何やら囁き声が聞こえた。
―…小磯、……トロいから…狙い…
拾い上げたキーワードが余りにも分かりやすくて、密かに笑ってしまう。
オマエ狙われてンぞー。
視線だけ送ったら何故か目が合って肩が跳ねる。
その瞬間視界の隅をボールが通って行った。
「うわ、っ」
…小磯を狙ったボールは見事命中した。
そいつは避ける事もせず、受け止めようともせず、真っ直ぐ飛んできたボールを受けた。顔面で。
「先生ー!小磯くんが鼻血でーす」
そして先生に連れられて保健室へ。
実は反射神経が良いとかそんな事もなかった。
次の時間にはへらへら笑って鼻ティッシュを詰めて授業を受けていたけど、それでいいのかオマエ。
しかし、休み時間になれば割りと人気なのがドッジボールな訳でして。
「小磯くん、行こう!」
「え、あ、うん」
何時も的にされてるのに彼は促されれば席を立つ。
オイオイ、断れよ。
そんな思考もへらへら笑うそいつに届く訳もなく、俺も誘われ校庭へ。
相変わらず挙動不審な様子はデジャヴュ。違うのは俺がこいつと同じチームな位。
昨日小磯を狙った奴らがまた何かを囁き合っている。まぁ、流石に二度目は…
「う、わ、わ!」
えぇ。
飛んできたボールは小磯の顔面コース。
ボールが来てるのは分かっているだろうに左右をワタワタと見ている。
受け止めるなり避けようとするなり何かしろ!と思った瞬間、俺の手は勝手に小磯の腕を引っ張ってボールの直撃コースから離していた。
「え、あ、あの…」
「すいませーん、俺とコイツちょっと抜けまーす」
オロオロと状況が読み込めてない小磯をズルズルと引っ張って人気のない校庭の隅に連れていく。
足を止めればどん、と背中に頭がぶつかった。
くるりと振り返って指先を挙動不審な小磯の鼻先に指を突き付ける。
「お、ま、え、は!苦手なら断れよ!」
「え、でも折角誘ってくれたんだし…」
「狙われてるの分かってるだろ!せめて避けるなりガードするなり…」
「え、僕狙われてたんですか…?」
…。
突き付けていた指を取れば痛くなった頭に当てる。
「あ、でもありがとう、佐久間くん!心配してくれたんだよね、どうも僕、鈍いみたいで」
(あ、名前…)
「あ、でもいきなり抜けちゃって、どうしたの?」
どの表情より似合う彼の笑みを桜が彩る。
春風によって舞う花びらがまるでこいつが呼んだみたいだ、なんて。
「……数学、教えてくんね?」
咄嗟に出た言葉は情けなくともベストアンサーだったと思う。
この日初めて数字に向けていた笑顔が、こっちに向いたから。
軽く息を乱して数回通った道のりを足早に行く。
視界半分を覆った前髪が邪魔でかき上げた時、見慣れた頼りない猫背姿が前に映った。
迷うことなく名前を呼ぶ。
「健二さん」
彼は茶色の髪を揺らしてゆっくりと振り返る。
目が合った途端に徐々に大きくなっていく瞳が面白くて少し笑ってしまった。
「え、え、えぇ!なんで佳主馬くんがこっちに?!」
慌てる姿は彼が夏以降使っているリスのアバターと似ていない筈なのに被ってしまう(正規アバターはあの一件で使えなくなったらしい)。
あの制作者は良く健二さんを見ているんだろうな、なんて。
「あ、え、佐久間がプリン、あ、また身長伸びたね!」
「ちょっと落ち着きなよ」
片手に持った買物袋をがっちゃがっちゃと言わせながらも駆け寄ってきて、健二さんはへにゃりと笑った。
もう目線は一緒だよ、健二さん。
その袋を奪って空いた手を握り、健二さんが向かおうとしていた家の方向へ歩き出す。
「俺、来週受験だから。それまで泊めて」
「へ?」
「…試験会場、こっち」
―…あいつらの世話を焼くのも大変だわな。
桜が何回廻っても、隣で笑っているのは俺だと思っていた。
さようなら、とか意地でも言わないさ。淋しがり屋はキングより知っている。
俺にしかないスペースがある。
そう思うことくらい、良いだろう?
大切、にしてたのにな、
おめでとう、健二。
かつんと空っぽの湯呑みに水の入ったグラスをぶつけて一気に飲む。
空になった食器を乗せたトレイを持つと彼は大学の食堂を後にした。
(淋しがり屋はどっちだ)
■TOP