俺――花宮真には好きなやつがいた。
名前は名字名前。
いつもヘラヘラと笑ってて、俺を見てるときは今にも崩れ落ちそうなくらい破顔していて、それがかわいいなんて思ったりした。見た目はそこらのやつなんかよりもよっぽど良くて、頭も悪くない。冗談を言うのが好きで、人望もあって、名前の周りに人が絶えることはなかったと思う。昔の話だ。
「…なんで、こんなにムシャクシャすんだよ」
授業でバスケのゲームをしたとき以来名前とは会っていなかった。同じクラスの大和が俺たちのことを心配していたが、ただならぬ様子だったので無理だと判断したのだろう。
俺たちが話すことは二度となかった。
それは俺が望んだ結果だというのに、名前のことを思い出す度に胸糞悪い気分が込み上げてくる。
俺は名前に裏切られた。
部活に出ないし練習もしない。でも、実力だけはあった。そう見込んだからこそ俺は本気で勝負をすることを望んだ。
その結果が惨敗。
そりゃあ、部活にも出ないわけだ。そんな低レベルなこと出来ないってか。今までずっと見下されていたっていうのか。
「話しかけないでくれる?俺、今すごい機嫌悪いから」
それは俺が望んで俺が決めたことのはずだ。
それなのに、胸が苦しくなるのはどうして?
「大好き」
腑抜けた笑顔で唱えられていた言葉がとても尊いものだったような気がして、誰もいない部屋で一人頭を抱えた。
一人で暮らすにはこの部屋は狭すぎる。
きっちりと名前のスペースだけが残されていて、俺は思い切り自嘲した。
こんなにも好きだったことに今さら気づいて、一体どうするんだ。
もうどうしようもないだろう、遅すぎたんだ。
頭に言い聞かせても、心が頷かない。
どうして間違えてしまったのだろう。
どうして名前を拒絶してしまったのだろう。
答えは明白だ。
俺が名前よりも自分のプライドを優先したからに他ならない。
こんなにも好きなのに、名前はもういない。
ここにはいない。
――いないなら、捜せばいい。
名前のためならなんだってしてみせる。
臆病な俺とはさよならだ。
20120819
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