――あれは間違いだらけの時代だった。
――ひたすらちぐはぐな時代だった。
「真、部活頑張ってね」
「当たり前だろ。名前こそ、そろそろ顔出せよ」
「みんな強いから嫌だ」
「…ハァ。名前だって十分強いだろ」
「無理無理。俺は努力が出来ないから」
「じゃあ、夕飯作っておいて。そしたら見逃してやる」
「おう、ありがとな真。大好き」
「バァーカ、当然だ」
舌を出して生意気に笑う真にキスをしてやると、真はその青白い顔を真っ赤に染め上げた。
俺がそうさせたんだと思うと二重に嬉しかった。
ユニフォームに着替える真を後ろから見つめると、花宮真という人物がいかに綺麗かがわかる。華奢なようで意外としっかりしている背中とか、抱いただけで折れてしまいそうな腰とか、真っ白い綺麗な足とか。どれをとってもすてきだと思う。たまに怪我をしたときに巻かれる包帯も好きだ。湿布を貼るときにぴくりと跳ねるところも好きだ。
俺は花宮真が好きだった。
愚かにも真っ直ぐに好きだった。
――これは、まだ俺が傷つくことを知らなかったときの話。
「お疲れさま」
「夕飯は?」
「カレーで良い?」
「ん」
もぐもぐと俺の作った食べ物を口に含む真を見ているのが俺の幸せだ。やめろと何度言っても聞かない俺に、諦めたのか、気づかないふりをしている。
「そういえば」
「なに?」
「明日の体育、バスケだよ」
「へえ。真のバスケ見たいなあ」
ニヤニヤと笑う俺をスルーして、真は真剣な目をして言った。
「名前、絶対に本気でやれ」
プライドの高い真のことだ、いくら授業とは言え手を抜かれるのを嫌がったのだろう。
俺も、真が言うのなら、と、そのときは何も深く考えずに了承した。
それが逆に真のプライドを深く傷つけることになるとは知りもしないで。
▽▼▽
「違うチームになっちゃったな」
「寂しいわけ?」
「うん」
「…ッ!?ばっ、バァーカ!負けねーからな!」
照れてる真もかわいい。
そんなことを考えながら、ゲームは始まった。先にボールをとったのは真のチームの方だった。
――絶対に本気でやれ。
昨日真に言われた言葉が頭を過った。
どうせ勝てないんだし、本気でやってみるか。
――本当に軽い気持ちだったんだ。
「…150-23、…名字チームの…勝ち…」
「…………え?」
気がつくとゲームは終わっていて、みんなが俺を褒め称えた。――すっげーよ名字!バスケうますぎ!――真以外。
「ま、真…?」
「話しかけないでくれる?俺、今すごい機嫌悪いから」
それは遠い日の記憶。
俺が初めて傷つくことを知った日。
20120810
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