「真は黄瀬のこと嫌い?」
嫌いに決まっている、俺から名前を奪ったんだからな。
でも、息切れしながら汗だくになりながら心配そうに眉下げて名前を呼ぶあいつに、悔しいけど負けた気がしたんだ。
そして、宣誓されて気づく。
俺が執着していたものの正体に。
好きだった。
本当に好きだった。
俺を好きな名前が好きだった。
俺を満たしてくれる名前が好きだった。
だから、プライドを傷つけられた気になって捨てた。
だから、黄瀬に揺らいだ名前を許せなかった。
本当に俺が好きだったものは。
本当に俺が守りたかったものは。
「…お前なんて、大嫌いだ。バァーカ」
だからそれは精一杯の虚勢。
これから名前が前を向いて歩けるように、俺からのおまじない。
たぶん俺はずっとお前の影を追い続けるけど、それでいい。
お前が未来で笑っていられるならなんでもいいよ。
「真、大好き」
俺はこの言葉だけを糧にして俺だけで生きていく。
「…大好きって言ったのに」
――さあ、嘘つきはだあれ?
end.
20120824
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