走り去る黄瀬をただ眺めていた。なんで、泣きそうになってまで笑うのだろう。
真は顔を歪めて黄瀬をにらんでいた。
「真」
「………」
「真は黄瀬のこと嫌い?」
「聞くまでもないだろ」
「なんで嫌い?」
「言うかよ、バァーカ」
軽口を叩く真にいつもの余裕は見られなかった。
「俺さ、あの時真に嫌われて、正直すげー傷付いた」
「………」
「こんなもんで今までの総てが崩れるなんて思ってもいなかったから」
でも。
「これは誰のせいでもないんじゃないのかなって、黄瀬と会って思った。黄瀬はこんな俺を嫌わないでくれた、真と違ってね。誰かが悪いわけじゃない。仕方ないことだった。あの時俺が手を抜いてたらどっちにしろ、真は怒ってたじゃん」
「………」
「おあいこってことにしよーぜ。俺、もう疲れたんだ」
この曖昧な関係を終わらせようよ。
そしたら俺たち、やっと前を向いて歩けると思うんだ。
「…お前なんて、大嫌いだ。バァーカ」
真は言う。その言葉に少なからずショックを受けたが、それでいい。それがいい。
これで俺は前に進める。
「ありがとう、真。俺は大好きだったよ」
「知ってる」
「でも、相手に怪我させるバスケだけは大嫌いだった」
「…だから部活来なかったのか?」
かわいらしく尋ねる真に、俺はゆっくりと頷いた。すると、ようやく合点がいったように、真は笑った。
憑き物が落ちたような笑顔。
俺の好きだった真の顔。
「怪我させるバスケは嫌いだけど、それが真のバスケスタイルだからどうしても否定出来なかったんだ。ごめんね」
「今さら謝るなよ」
「でも、ごめん」
「また謝ったら犯す」
「えっ!」
「冗談に決まってんだろ、バァーカ」
冗談に聞こえない、なんて言ったら頭を叩かれてしまった。
「黄瀬に嫌なことされたら言えよ、俺が潰してやるから」
「真、元気づけるの下手すぎ」
「バァーカ、違うに決まってんだろ」
擦れた笑顔で嘯く真と話していたら、きっとこれからもうまくやっていけるんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
よし。
明日、黄瀬に告白しよう。
この温かな気持ちの名前を伝えよう。
俺が決意すると、茜色になった空を一羽の鴉がなきながら横切った。
20120824
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