君は嘘つき | ナノ


「黄瀬、名前が今どこいるか知らね?」
「いや…メールしても返信が来なくて……。どうしたんスか?」
「名前は授業サボることはあっても学校自体はサボったことねーんだよ。風邪だったら担任に連絡いってるはずだし」
「えっ、………本当に心配っスね…」


だが、昨日あんなことを言ったばかりなのだ。自分が探しに行くのはまずいだろう。

そう思って同調するだけに止まっておいたのだが、大和は「黄瀬が知らないなら花宮がなにか知ってるかな」と呟く。
花宮?聞きなれない名前に首を傾げると、大和は丁寧に説明してくれた。


「花宮真。中学のときに名前の親友だった男だよ」


親友なんかで終わっていたはずがない。セックスをする親友なんてどこにいるというんだ。
恐らく、先日呼んだ「真」という人間は、この「花宮真」で間違いないだろう。問題は、どこにいるかだ。花宮なら知ってるであろう居場所。俺にはわからないのがたまらなく悔しい。


「そういやあいつ、海好きだったけど」
「!」


もうどこでもいい。
名前の居場所を突き止められるならどこだって行ってやる。


「お前もさぼんのか?」
「ノートよろしくっス!」
「貸し1な」


なんでもしてやるよ。

カバンを掴んで教室を飛び出した。数秒遅れて先生が俺を呼び止めたけど、キセキの世代を舐めることなかれ。俺たちがそう簡単に誰かの言うことを聞くことなんてない。赤司っちに至っては誰の言うことも聞かない。


「海…」


一番近くの海辺へ向かおうと電車に飛び乗った。
一刻も早く名前っちに会いたい。会って、早く伝えたい。どんなに酷いことをされてもいい、名前っちの傍にいていいと言うなら、どんなことにも耐えてみせるから。

ねえ。

電車の窓から海が見えた。それと共に二人の人影――遠くだからよく見えなかったけど、絶対に名前っちだ。

電車よ止まれ、強く願ったけど電車は止まることはなく、扉が開くとすぐに弾丸のように飛び出した。
もっと早く動け、俺の足。


「名前っち!!!」


叫んだ。喉の奥から、人生で一番叫んだ。
首だけで振り返った顔を見て、名前っちだと確信する。

しかし、どこかおかしい。


「ふはっ、邪魔すんじゃねーよ」
「………は、」
「人のセックス邪魔すんなって言ってんの」
「………ふざけんじゃねーよ」


地を這うような声が出た。
今俺は怒っているのだろう。だって、こんなにも腹が疼く。名前を安心させられるように笑っていられるほどの余裕はないし、握りしめた拳は震えていた。


「名前っち泣かせておいて邪魔すんなって?」


一歩ずつ近づくと、花宮はズルリとちんこを引き抜いて身だしなみを整えた。名前っちはへたりとその場に座り込む。ごめんね名前っち。


「俺、アンタが名前っちのこと好きなら俺は名前っちの傍にいるだけでいいと思ってた。けど、こんなんなら、俺が名前っちを幸せにしてみせるっスよ」
「バァーカ、こいつは俺のことが好きなんだよ」


そんなことは知ってる。だって名前っちは俺を見てくれなかったから。でも、それだと絶対に名前っちは幸せになれないと思ったから。

俺が名前っちを幸せに、笑顔にしたいと思ったから。


「名前っちを一番思ってるのは俺だ。アンタには負けねーっスよ」
「…なにも、知らないくせに」
「悪いけど、バスケの話は知ってる。けど、そんなことじゃ俺は名前っちを嫌いになれない。そんなに俺の愛は軽くねーんスよ」


花宮真の目を真正面から見つめる。

名前っちが愛した男。
俺の向こうにいつも名前っちが見ていた影。


「…言いたいことはこれだけっス。名前っち、考えておいて。俺、本気だから。――また明日、学校でね」


かろうじて笑顔は作れたが、それは笑顔というにはあまりにも悲しすぎる笑顔だった。
かっこつけもできない、無様な俺。

ただ好きなだけなのに、どうしてこんなに辛いのだろう。



20120824
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