▼ 夢に棲む
いつも、同じ夢を見る。
鏡に映った自分が歪に笑っている、そんな夢。
夢に棲む
今日だけは部活を休んで先に家に帰ると、予想通り泣きながら帰ってきた名前が見えた。
僕が帰ってきていることに気づき、真っ赤に腫らせた目を丸くしている。
名前は今日、黄瀬のファンから呼び出しを受けたのだ。
ほとんど僕か黄瀬がついていたからか、怪しまれないように大人しめな女の子が伝言役を努めたらしい。
慰めてあげよう。
そう思って名前に近づいた瞬間、「来ないで」と言われた。
「…どうしたの?」
「来ないで」
ハッキリと突きつけられた拒絶の言葉を最初は理解出来なかったが、だんだんと頭に入ってきた。と、それと同時に怒りが込み上げてくる。
なんで名前が僕を拒絶するんだなんでなんで僕は名前の唯一で絶対なはずなのになんでなんでなんでわからない予想外だうまくいかないなんでなんで僕はちゃんと駒を進められたはずだなにも間違ったことなんかしていないはずなのになんで。
ピシャリ。
乾いた音が響いたのに気づいた瞬間、僕は名前を突き飛ばしていた。
「…出ていってくれないか」
僕がそう言うと、真っ赤な頬を押さえもせずに名前は悲しい顔をさせた。その顔が夢に出てくる僕の表情そっくりで、余計に苛立った。
勝手にほぼ軟禁状態にしておきながら勝手に追い出そうとする僕も僕だが、先に拒絶したのはそっちだ。
「バイバイ、征十郎」
制服のまま外へと繰り出す名前を、僕は夢のことのように思っていた。
「…僕に、すがってくれると思ったのに」
出ていきたくないと泣いてくれると思ったのに。
名前は拍子抜けをするくらいにあっさりと僕から離れていった。
どうしたらいいかわからなくて、僕は初めて自分を傷つけた。
20120814
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