▼ 終わり無き日々
「お前はただ僕だけの命令をこなしていればいいんだ」
あまりにも真っ直ぐで偽りのないその瞳で言われたからきっとそうなのだろうと思っていたし、それが"彼"のためになるのなら、と、わたしはずっと信じていた。
――わたしは征十郎以外に人を知らない。
征十郎以外に人が存在していることは知っていたけれど、それを知る手段はやっぱり征十郎で、わたしは物心ついたときから征十郎以外に人と関わったことがない。しかし、わたしはそれで構わなかったし、征十郎がそれでいいと言うならきっとそうなんだろうなと思う。だって、征十郎はいつでも正しいから。
終わり無き日々
「ただいま。名前、いい子にしてたかい」
「おかえりなさい。もちろん。今日は天気が良かったからついでにお布団も干しちゃった」
「ありがとう。今日の夕飯は?」
「征十郎が昨日食べたいって言ってた秋刀魚だよ」
「覚えていてくれたんだ、ありがとう。汗をかいたからお風呂に入ってから食べるよ」
「えへへ。待ってるね」
征十郎は今日も部活だって言っていたからお風呂を沸かしておいて良かった。
征十郎はわたしに最低限の衣食住を提供してくれる代わりに家事の一切を要求した。必要最低限の用事以外では外に出してはくれないけれど、人に必要とされることはとても嬉しいことだし、読書や音楽鑑賞、ドラマ鑑賞をさせてくれるなどのある程度の娯楽は許可してくれている。わたしはしあわせだ。
物心ついたときにはもう征十郎と二人だった。征十郎が家にいないときには一人だった。
さびしいとは思わない。わたしなんかが外へ出たって、どうせ傷つくことしか出来ないのだから。
読書ばかりしかしてこなかったせいか、わたしの脳は感受性に富んでしまったのだが、それを人に向けることはないだろう。
だってわたしは臆病者。
人と同じようになんて暮らしていけるはずがない。
20120812
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