▼ あした目が覚めたら
大好きだと言えば誰でも俺を好きになってくれると、傍にいてくれると思っていたけど、彼女だけは例外だったらしい。
夢のように儚くて優しい子。
あした目が覚めたらこの世の美しいもの全て消えていますように
本当に夢のようだった。
長く続かなかったあの幸せは昨日で消えたのだ。
黒子っちはバツが悪そうに俺と目を合わせない。赤司っちとはあれ以来顔を合わせていない。
最後に見た手首にリストバンドがついていた理由を、俺は知っている。締め付けられるような感覚が嫌だと以前言っていた彼がそれでもリストバンドをつけなければいけなかった理由とは。
「おい黄瀬、1on1するぞ」
「は、はいっ!」
赤司っちがいない部活は慣れない。それほどまでに彼はここに馴染み、また、君臨していた。
そういえば、赤司っちになついていた紫原っちも部活に来ていない。
バスケを嫌いになってしまったのだろうか。それとも。
「きーくん、」
「桃井っち…悪いんスけど、俺にはどうにも出来ないっス。これは赤司っちの問題っスから」
そう、俺は部外者。だから、赤司っちの行き過ぎにもとれる愛情表現をとやかく言う資格など端から持ち合わせていないのだ。
悔しいが、これが現実。
正直、赤司っちがいなくてもキセキの世代は負けない。それでも、赤司っちがいなければ俺たちは成り立たないのだ。
「きーくん、辛かったら相談してね。いつでも力になるから」
「ありがとうっス、その言葉だけで俺はもう平気だから。桃井っちも、そんな悲しい顔しないでください」
「…うっ、でもきーくんが一番つらいのに…!」
「本当に俺は大丈夫っスから」
それに、大丈夫じゃなかったとしても、なんとかできるのは名前しかいないから。
彼女に渡した合鍵が、俺と彼女を繋ぐ掛橋になってくれればいいのに。
20120901
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