▼ 焼け爛れた未来だけ
昔から僕は大人びた子供だった。
みんなと同じように遊ばないし笑わない。そのことの無意味さを解っていたから。
大人はそんな僕を許さなかった。
最初こそやれ優秀だやれ良い子だと持て囃したものの、やがて僕の異質さに気づくとみな逃げるように去っていった。
敗北を挫折を失敗を後悔を――、
僕は知らない。
僕は誰にも何にでも負けたことがないから、きっと他人とは違って特別なんだろうと感じた。
誰もが僕と一線を置くのは、きっと自分の矮小さを知りたくないからなんだと思った。
そう思わないと生きていける気がしなかった。
そんな中出会った、名前という少女。
僕に真正面からぶつかってくれた、唯一の存在。
その存在だけが僕を満たしてくれたような気がして、いつの間にか一緒に暮らしていた。
「お前はただ僕だけの命令をこなしていればいいんだ」
本当にそう思っていたし、名前も頷いていた。
だから、きっとそれが正しいのだと思っていた。間違っていないと信じていた。
焼け爛れた未来だけ手に入れた
「…名前、おいで」
「…いやだ」
黄瀬に無理矢理連れてこさせたのだが、返ってくるのは似たような言葉ばかりだった。
「なんで?」
「征十郎は嘘つきだから、いや」
「僕が嘘をついたことがあった?」
いくら考えても記憶にないので聞いてみると、掠れた小さなで、一言。「"僕がいるから"って言ったのに、わたしのこと助けてくれなかったよね」――責めているような目だった。
そういえば、名前が初めて学校に行く途中に言った、不安がっている名前を安心させようと。
「わたしは怖かった。でも、征十郎がいるからって、助けてくれるからって、頑張って耐えた。信じてたのに」
「それについては謝るよ。だから、一緒に帰ろう」
「………」
「本当にごめん」
「…うん、謝ったから許してあげる。バイバイ、お世話になりました」
それを聞いて、僕はほっと胸を撫で下ろした。
黄瀬は納得のいかないような表情をしていたが、関係ない。
名前と家に帰ったら、今まで言っていなかった気持ちを伝えようと思う。
――狂おしいほどに思う、愛という名の免罪符を。
▽▼▽
「名前、好きだよ。小さい頃からずっとキミが好きだ。この気持ち、受け取ってくれるかな?」
家に帰るなり告げたその言葉に、名前は少なからず驚いていた。
無理もない、言わなくてもわかってくれると思っていて、一度として伝えたことなどなかったのだから。
名前は僕の目を見据えて、口を開く。
頬が少し赤くなっていた。
「わたしなんかで良かったら、よろこんで…!」
それは、今まで見てきた中で一番の笑顔だった。
僕もつられて笑うと、名前はくしゃりと顔を綻ばせる。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
これで名前は完全に僕のものになったんだと、信じて疑わなかった。
20120829
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