▼ 美しき執着
「赤司っち、リストバンドなんて珍しいっスね」
「黄瀬、グラウンド5周」
「なんで!」
「今機嫌が悪いんだ。わかったら10周な」
「あんまりっス!しかも増えてる!」
いつものようにおちゃらけながら赤司っちの様子を窺えば、余裕がないのが一目瞭然で。
申し訳なく思いながらも、名前のことを言い出すつもりにはなれなかった。
美しき執着
「……珍しいな、お前がミスるなんて」
「赤司くん、今日は少し休んだ方がいいのでは?」
「…いや、大丈夫だ。心配をかけてすまない」
どこからどう見ても大丈夫じゃないのに笑顔を作って大丈夫だと偽る赤司っちを見て、ちくりと心が痛む。それでも名前が欲しかったから、俺はひたすらバスケに打ち込んだ。
▽▼▽
「おかえりなさい、ご飯適当に作っておいたよ」
「え、本当っスか?嬉しいっス!」
家に帰ると名前が笑顔で出迎えてくれた。まさに理想のお嫁さん。
にやける顔を抑えて俺はリビングへと向かった。
昨日のことはどうやら水に流されてしまったらしい。
ぎこちないのも嫌だが、これはこれで意外とヘコむ…。
「黄瀬くんにはお世話になったから、これくらいはさせて」
「えっ、毎日作ってくれるんスか!?」
「えっ、明日も居てもいいの…?」
「当たり前じゃないっスか!名前っちが困ってるのを放ってはおけないっス」
「でも、なんで会ったばかりのわたしにそんなによくしてくれるの…?迷惑じゃない?」
泣きそうに顔を歪める名前っち。
この子は明日からまた街をさ迷うつもりだったのか、と気がつくと、悲しくなった。
「迷惑なんて思うはずがないっスよ。だって、俺、名前っちのことが好きだから」
「黄瀬くん……」
「涼太でいいっス。ていうか、そう呼んでください」
「りょ、」
ピンポーン。
急にチャイムが鳴った。
こんな遅くに誰だろう、ファンが追いかけてきたのかもしれない。そんなことを考えながらインターホンを見たら、そこには大親友が映っていた。
「黄瀬くんに話があるので来ちゃいました」
「…今部屋片付けるんで、少し待っててくださいっス」
――黒子っち。なぜここにこのタイミングで来たのだろうか。
内心慌てながらも平静を装う。
名前には友達が来たから自分の部屋にいるように言っておいた。
「あ、眠かったら先に寝ててくださいっス。俺、ソファーで寝るんで」
「そんな、悪いよ」
「おやすみなさい」
さて、なんの用事だろうか。
20120819
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