◎天使は無欲
「土方スペシャル一つ」「宇治銀時丼一つ」
土方は名前を連れてとある定食屋に来ていた。その際隣り合った人物と声が被ってしまったので首を回すと、いやな奴と出会ったと目を見開いた。
それはいやな奴――坂田銀時にしても同じであったが、土方の隣の席の人物を見て機嫌を良くした。
「あらっ、名前クンじゃない? サインください」
「おいてめーウチの名前に何の用だ」
「お妙の奴が名前クンを気に入ったらしくてサインもらってくるように頼まれてんの。良かったな、ゴリラストーカーと名前クンで好感度プラマイ0だ」
宇治銀時丼という名の犬のエサを口にかきいれながら話す銀時の横で、これもまた土方スペシャルという名の犬のエサを口にかきいれながら話す土方。名前はそんな二人を見て大人しく塩むすびを食べていた。
名前は、その年頃の子供には珍しく、水かお茶しか飲まず、菓子は摂らず、食事も豪華なものは口に含まなかった。
銀時はそんな名前に気づくと自分の犬のエサをすすめたが、やんわりと名前は断った。「僕は食事に関心が持てないので、お気持ちだけいただきます」と丁寧に断るものだから、銀時は面食らってしまった。
「成長期なのに食べなくて大丈夫?」
「はい。炭水化物と肉類、魚類、野菜はきちんと摂取しているので大丈夫です」
「‥摂取ってお前なあ‥」
まるで食事が作業のような言い方だ。
事実、名前は食べなくては死ぬから食べるという考えを持っていて、食事に執着はない。
土方もそれには同意で、名前においしいものを食べさせてやりたいと思っているのだが、土方スペシャルは先ほど丁寧に断られたばかりだ。
「‥名前クンはさ、楽しいことってある?」
名前は無表情で「特にありません」と答えた。
20140323
mae tsugi
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