◎荒北にお節介を焼く
えっと。
困ってる人がいたら助けるのは当たり前、だよね?
倒れてる人がいたら手を伸ばすのがいけないことだとは私は教わらなかった。
だったら、この人はもしかして‥!
「ほっとけ! こんな雨じゃてめーまで濡れちまうダロ!」
「私は平気だよ! それより君、怪我してるじゃない」
「なめときゃ治るヨ」
「ダメだよ。箱学だよね? 寮? 私も寮だから一緒に行こう」
「‥チッ。傘はてめーがさしとけヨ」
「うん!」
聞くところによると、彼の名前は荒北くんと言うらしい。言葉遣いは乱暴だけど、優しい人みたい。シャイだから認めないだろうけど。
なんだか野良猫を拾った気分で寮まで一緒に歩いていると、突然荒北くんが大きな声をあげた。
「てめっ! 何で俺の方に傘寄せてンだヨ! おめーが濡れてるじゃねーか! あーもー!」
「えっ? ああ、いいよ気にしないで」
「気にするっつーの! くそ! 貸し作っちまってキモチワリーだろーが!」
「ほんとうにいいのに‥」
「俺が嫌なんだヨ!」
荒北くんは義理堅い人間なのだろうか。私の中の荒北くん像が段々聖人君子に近づいているのだけどそれを言ったら怒るだろうなあ。
寮まで行くと、荒北くんは女子寮の前まで送ると言い出したのでお言葉に甘えた。帰りのために傘を渡すと荒北くんは顰めっ面をしたが、「明日返しに来てね」と言うと渋々引き下がってくれた。笑顔で脅したのがよかったのだろう。
「荒北くんかあ」「名字サンかァ」
――変なやつ。
20140321
mae tsugi
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