◎うたプリ×テニプリ
・レンの妹(七歳下)
・レンはシスコン(主人公も中々のブラコン)
・聖川さん家の真斗くんと黒崎さん家の蘭丸くんとは対面済み
・例のごとくみんなシスコン
・例のごとく主人公は二週目(転生)
・多方面のクリエイターで、神宮寺財閥の宣伝にはほぼ携わっている
・ちょっと患ってる
・蘭丸くんのバンドにちょくちょく参加する
・時期的にプリンス様たちが早乙女学園に入学した辺りかマスターコースらへん
・氷帝入ってテニス部の人気に少し驚いてる
誰もいない音楽室で、ひとりピアノに向かい合う。防音設備がされている室内なので、騒音を気にせずに音を奏でられることは純粋にうれしい。榊先生から預かった鍵をピアノの脇に置くと、椅子に座った。そして鍵盤を叩くと、ポーンと心地よい音が耳に入る。
そのまま直感に身を任せて指を滑らせていけば、新しい旋律が生まれる。忘れないように、とそばに置いていたカバンからルーズリーフとペンを取り出してメモしていく。そして、書き終わったらまたメモの繰り返しをしていれば、いつの間にかあたりは赤くなっていた。早く帰らないとレンが心配してしまう、と慌てて荷物を仕舞って音楽室を出た。
榊先生に音楽室の鍵を返そうと職員室へ向かったが、放課後は顧問を務めているテニス部の様子を見ているのだと言う。正直面倒なので榊先生のデスクの上に置いて帰りたかったが、もしこれで鍵が行方不明になったらそれこそ面倒である。仕方ない、とため息を吐いて、私はテニス部のいるテニスコートへと足を運んだ。
「氷帝!氷帝!」
テニスコートに近づくにつれて聞こえてくるこのコールが、噂の氷帝コールだろうか。初めて聞くそれを面白く思いながら榊先生を探した。
テニスコートの周りは人に溢れていて、誰が誰だかわからない状況だ。しかし、私はレンに似て背が高い。頭一つ分高いそれを生かしてなんとかテニスコートを覗き込むと、どうやら試合が終わったみたいだ。モーセの十戒のように別れる人だかりをぼうっと見ていると、その先からジャージを着た一人の男子が歩いてきた。この顔は見たことがある。氷帝の生徒会長だ。
私が困っているように見えたのか、その人は私の前で立ち止まり、首を傾げる。
「アーン? どうした」
その言葉だけで私の後ろにいた人がキャアと声をあげた。確かに格好いいし、様にはなっている。しかし、私の兄は神宮寺レンだ。悲しいかな、耐性がついてしまっていた。
さて、そんなことは今は置いておいて、この人は親切なことに、困っている私に声をかけてくれた。つまり、力になろうとしてくれているわけだ。お言葉に甘えないわけがない。
「榊先生に用事があるのですが、職員室に行ったらここにいると‥」
「監督か? ベンチにいるから今呼んできてやる」
「ありがとうございます!」
生徒会長は出来た人だなと思いながら榊先生を待っていると、またモーセの十戒のように生徒会長が榊先生を連れてこちらへ歩いてきた。榊先生は私の姿を見つけると、小走りで駆けてきた。女子か。
「鍵、ありがとうございました。お返ししますね」
「いつでも使いたいときは言ってくれ」
「はい。それでは失礼しました」
「おい、少しいいか?」
「? なんでしょう」
生徒会長が私を呼び止めた。周りの子たちが少しざわつく。
生徒会長は人気者だから、嫉妬の視線が向いても仕方ないことだと私は頭をかいた。レンの周りにいる子たちから何度も同じようなことをされたので、幾分かは慣れている。
しかし、予想に反して生徒会長は真摯に私を見つめ、腰を折った。
「神宮寺名前、お前に頼みがある」
「‥まず顔をあげて、要件をお伝えください」
相手に頭を下げられたままなんて、やりづらいことこの上ない。そのためそう告げると、彼は顔をあげたあと、その薄い唇を開いた。
「跡部財閥の、宣伝ソングを作ってほしい」
「‥なるほど。でも、理由は?」
「少し場所を移したい」
「わかりました。榊先生、少し彼をお借りしますね」
「許可しよう」
榊先生の許可をもらって、場所を移した。生徒会長である彼が向かった先は生徒会室で、初めて入るそこに私は言葉を失った。さすが氷帝とだけ言っておこう。
ふたりきりになったところで、生徒会長は再び私に向き直り、言った。
「どこから話せばいいのか‥。俺は跡部景吾、跡部財閥の跡取りだ」
「跡部‥。ああ、はい」
「フッ、知らなかったんだな。まあいい。俺は跡取りになるべく幼いころから鍛えられていた。そして、今回、跡部財閥の宣伝を任されることになった。俺は妥協はしたくねぇ。だから、お前に協力を仰ごうと思った。お前の作った曲はホンモノだ」
「私の曲をどこで聞きましたか?」
「アーン?神宮寺財閥のCMソングじゃねーか。誰が作ってんのか気になって調べたが中々わからなかったがな」
「‥質問を変えます。誰に私が作ったと聞きましたか?」
私は基本的に身を隠してクリエイト活動を行っている。簡単にばれるはずはないのだ。
「‥チッ。黒崎に聞いた」
「蘭丸くんですか。なら、良いでしょう」
「誰だったら駄目だったんだ‥」
「私と仲良くない人だったらあまり良くは思わなかったでしょうね。蘭丸くんに私を聞いたということは、跡部さんは蘭丸くんのご友人ですか?」
「まあな。アイツの家が潰れたときに少しばかり一緒に住んでいた時期があった」
蘭丸くんの友人。
それだけで、私が頼みを聞く理由は十分だ。
「‥わかりました。引き受けます。詳しいことはメールでパソコンの方に送ってください」
「報酬はいくらがいい?」
「それは私の作品を聞いてから跡部さんが決めてください」
「なるほど、面白いじゃねーの」
私は自分の曲を神宮寺財閥にしか使っていない。それはただ単に、私に商売は向いていないからだ。身内相手であれば、お金のことは考えずにいられる。長男に任せていればいい。
‥その曲が価値を持ったことは、予想していなかったわけではないが。
話が終わると跡部さんは手を差し出してきたので、握手をした。
「よろしく頼む、神宮寺」
「任せてよ」
20140309
mae tsugi
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