◎花宮が花形の弟になる
「アイツは天才だ」
「そんなにバスケ上手いのか?」
「いや、頭がキレるんだ。恐ろしいほどにな」
二つしか歳の違わない弟を思い出しながら、男――花形透は言った。実際、彼の知っている弟は勉強をしているところを見せたことがない上に教科書も新品同様であるにと関わらず、テストでは常に首位をキープしているというまさに神童であったし、最近減ってはいる幼い頃からの口喧嘩も勝てた試しがない。
それを聞いた男――藤真健司は興味深そうに笑った。花形が弟に口喧嘩で負けているところを想像して面白がっているのだろう。
「で、弟くんはどこに入る予定なの?ウチ?」
「さあ、知らないな」
「兄弟なのに?」
「あんな弟知らん」
「ひどい兄だなあ」
けらけらと笑いながらも、藤真はとある一人の男の噂を思い出していた。――“悪童”、花形真の噂を。
“悪童”が出た試合をした相手の選手の誰かしらが怪我をするという、嫌な噂だった。
キュッキュッとバッシュの音が鳴り響く体育館内で、二人はどちらからともなく無言になる。
時折嫌な笑みを浮かべる弟を思いだし、花形はぶるりと身震いをした。人付き合いは良かったし、穏やかで真摯な対応が評判の弟であったが、どうしても、不気味に思えるときがあったのだ。しかも、最近は不良と連んでいるという噂らしい。
「そういえば最近真の顔を見てないな」
「なんで?」
「外泊の多い奴だからな」
「ふーん」
――へっくしゅ。
噂をされている当の本人は、ただいま追われていた。誰にかと聞かれれば、流川楓にだ。
同じ中学のバスケ部仲間である二人はしかし、あまり親しくはない。なぜならば、花形真の嫌いな人間こそが流川楓のような人間だからだ。
「よくもラフプレー仕掛けてくれたな」
「言い掛かりは止してくれ流川。誰も見てなかったじゃないか」
「鳩尾入って痛えんだよ」
「それはお大事に」
「…許さん」
部活のある日はいつもこんな調子である。仲がいいと思われているのか、このおいかけっこは常に微笑ましいものでも見るかのように見られるし、女共は「いつもクールな流川くんが熱くなってて素敵!」と訳のわからない歓声をあげるしで散々だ。
「勘弁してくれ‥」
20140208
mae tsugi
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