ネタ vol.2013 | ナノ

◎進撃の殺人鬼

「へえ、人類最強か」


ずいぶんと懐かしい単語を耳に入れた私は少し上機嫌で地面を蹴り上げた。

人類最強。赤き征裁。砂漠の鷹。死色の真紅。どれも“彼女”にぴったりの言葉だと思ったし、どれも“彼女”を表現しきれない言葉だと思った。しかし、これは昔のこと。もっと言えば、“前世”のこと。

この世界で人間は巨人に虐げられている。
強い弱い関係なく、運の悪い人間から“食われる”。文字通り、ぱくりと。


「オイ、貴様」
「………」
「貴様は何者だ!?」
「零崎正識」
「出身はどこだ!」
「知ったことじゃないです」
「ふざけた野郎だな!零崎!貴様は何しにここに来た!?」
「巨人を殺す、ただそれだけのためにここへ来ました」
「それは素晴らしい、が、態度がなっておらん!お前みたいなやつが真っ先に死ぬ!」


通過儀礼と呼ばれる過程を経る、ということは噂で聞いたことがあるけれど、私は私であることに誇りを持っている。“零崎”という“生き様”にすべてを賭けている。そんなやつに自分を否定したらどうなるか、教官は知らないらしい。
“零崎”の仲間意識の強さを。たとえそれが一人であっても殺し続けるその生き様を。

零崎双識の愛弟子にして“地獄の番犬”と呼ばれた零崎正識の恐ろしさを。


「ーーへえ、誰が死ぬって言いました?面白い冗談です。貴方は私に勝てないのに」
「…貴様、零崎正識。誰に向かってそんな口をきいている」
「私は巨人なら殺しても罪にならないからここへ来ました。本当は殺人鬼らしく人を殺したいんですけれども、私の名前は零崎正識、正しくないことはしない主義でして」


なんなら誰か殺してしんぜましょうか?

零崎の純度100%の殺気をまき散らせば、まともに立っていられる人間はあとわずかしかいなくなった。しかし、全員制圧できると踏んでいた正識は平気な顔して立っている黒髪の少女を目に入れると少しだけ表情を弛めた。


「なんて、嘘です、嘘。私は菜食主義です。私は害虫しか殺さない」
「…貴様は死ぬ寸前まで走れ」
「はあい」


へらりと笑って返事をすれば、返ってきたのは鬼気迫る教官の顔。かませ犬っぽい顔をしているなあと内心思いながら、神妙な顔をして見せた。


人を殺す、殺人鬼。
どうせならこの世界での人類最強に会ってみたい。それだけが今の私の目的だ。




適性を見る判断も難なくパスし、入団してから二年経った。人類最強にはまだ会えていない。まだだ。もっと上へ行かなければ。まだ巨人一匹すら殺せていない。いくら菜食主義とは言え、零崎の本能は溜まっていくばかりだ。


「アニ、機嫌悪いね」
「…別に。変な奴らに絡まれただけ」
「ま、暇つぶせてよかったんじゃないですか」
「零崎はどこにいたの?見なかったけど」
「私は殺気を向けられると殺したくなるから自主的に見学」
「サボりか」
「まあね」
「…殺人鬼って本当なの?」
「本当だよ」
「ふうん、どうやって?」
「殺すだけだよ。ナイフでもフォークでもペンでも爪でもなんでも使って相手を殺す、だけ」
「なんで?」
「…それは、なんでアニは息をするの?って質問と同じかな」
「あなた、おかしい」
「知ってる」


それでも、零崎一賊を愛し続けている。
彼らを忘れてしまいたくない。だから、私は彼らの技術を“盗んだ”。



「…人類最強は、哀川潤だけだ」



この世界は息苦しい。






「零崎正識と言えば、聞いた名だと思って来てみれば、本人でしたわね。ディアフレンド」
「そういう貴方は《大泥棒》ーー石丸小唄ですね」
「あら、覚えていらっしゃったのですか?光栄ですわ。しかし、今は大泥棒を生業としているわけではありませんの」
「………?貴方が人の下につくはずはありませんし、何をやっているんです?」
「調査兵団の兵長ですわ、ディアフレンド。本日はそれについてお話があって来ましたの」
「私に下につけと?」
「ええ。話が早くて助かりますわ。いくらわたくしと致しましても、何匹いるかわからない巨人相手に何の対策もせずに行くことはしませんわ。…もっとも、わたくしたちの知る“人類最強”はそのまま突っ込んでいくのでしょうけれど」
「…この世界の人類最強に会えるなら、ついて行きます」
「リヴァイに会いたいのですか?オススメは致しませんわ」
「人類最強の実力がどれほどのものか見たい」
「良いでしょう。報告しておきますわ、ディアフレンド。荷物をまとめてお待ちになってください」


20130503

mae tsugi

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