◎フリルは羽じゃない
弱いものは可哀想だなあ、と私は常々感じていた。
−−力がないから自分で選べない。選択肢を迫られる。力こそが正義で、絶対。だから私はここまでの好待遇で暮らせてこれた。
"予言の書"を手に入れたというジャックを横目に私は腕組みをして突っ立っていた。アリスがジャバウォッキーを殺すという予言を見て若干興味をそそられる。
「名前、一緒に来い」
「アリス捕獲ですっけ。承知した」
ジャックの命令口調も今は気にならない。ジャバウォッキーを私が殺してしまうことはできないと言うので、私はせめてそれに介入しようとするだけだ。
ジャックの向かう方向は帽子屋のところのようだ。妻と子供を人質にとられた犬が真面目にアリスを探している。
選択肢を迫られたせいで、従う他ない。
「おや、名前…執行人じゃないか。私を執行しに来たのかい?」
「残念だけど、帽子屋、アリスを探しに来たんだ」
「あ、アリスだって?」
「…見たところ、いないようだね。ま、精々見つからないように」
「…君は、味方かい?」
「さあねえ。フラムジャスの日が近づいているようだし、私は特等席で楽しむことにするよ」
ひらひらと手を振ってジャックの後ろを駆ける私に帽子屋は笑った。
敵も味方もいらない。私はいいハンターではなかったから動物にはなつかれた試しがないけれど、蜘蛛の中でも指折りの実力を持っていると確信していたからだ。
「一つ、言うことがある。首切り執行人はここでは何一つ罪を犯してはいない」
「………罪?」
「命を奪ってなんかいないってことだよ」
「?」
私の念能力。
《正直者は馬鹿を見る》(フェイクメーカー)とは、私の円の中にいる生き物すべてに幻覚を見せるというもの。無駄な戦いを避ける私のための能力とも言えるだろう。そのかわり、騙された生き物の内一匹もしくは一人でも騙されたことに気づけばその幻覚は効果をなくしてしまうけれど。
「ま、頑張って」
20130326
mae tsugi
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