◎カンバス・ワンピース
不思議の国の処刑人−−それが、私の立ち位置だった。
白の女王の冠が赤の女王に奪われて以来、私は赤の女王の気に入らない者を処刑している。かといって赤の女王に従っているわけでもなく、処刑するだけでお金がもらえるという好条件で働けるのでそれを快諾しただけである。
白の女王は平和主義であまり合わない。
−−私はトリッパーである。前の世界では盗みや殺し、なんでもやってきた。蜘蛛と呼ばれる盗賊集団の一員として、誉められた人生ではないけれども、それなりに愛着のあるものであった。
しかし、ここはどうだ。楽しみを見出せる兵もいなければ、解り合える仲間もいない。
唯一私が私でいられるのが、処刑を執行している間だけであった。
「またお出かけか」
「そうだよ。お茶会に出かけるの」
「あのイカレ野郎か」
「楽しいよ」
ハートのジャックの質問に手短に答えると、私はジャケットを羽織って扉に手をかける。
この真っ赤な装飾には似合わない、真黒なワンピース。真黒な髪。真黒な爪。赤のものを何一つ身につけていない私はこの城では異色な存在である。真っ赤なものはただ一つ。
−−燃えるような、緋色の目。
「罪人は適当に牢屋に入れておいて。帰ってきたら執行する」
「人使いが荒いことだ」
「今更でしょう。いってきます」
弱い人は苦手、殺したくなるから。
思慮の浅い人も苦手、勝手に踏み込んでくるから。
孤独。
孤独を処刑という快楽で紛らわす私は、あの変態ピエロとたいして変わらない存在であるらしい。
「−−帽子屋さん、殺戮はまだなの?」
にっこりと笑うその姿はまるで死神のようだと誰もが言った。
誉め言葉だよ、と私は笑った。
20130318
mae tsugi
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