ネタ vol.2013 | ナノ

◎喰種のフリをする念能力者

「狐さん、どこへ行く」

 アオギリの樹にてタタラが背を向けた狐面の男に訊いた。ヤモリやアヤトの不審そうな視線を向けられていることを知りながら、狐面の男は余裕を崩さない。そこはなんとなく、ピエロに似ている気がした。

「どこへ行こうと、関係ないだろ?」

 狐の面をつけたまま、軽やかに言う。ひらりと舞った瞬間には男は窓から飛び降りたあとで、タタラはじっと窓枠を見ていた。追いかけても良かったのだが、機嫌を損ねるのはタタラの本意ではない。
 通称狐さんはアオギリの樹のメンバーだったが、賛成派と反対派に分かれていた。狐さんが有能であるということは誰しもが認めていたが、その行動に問題があったのだ。

 人は退屈するとスリルを求める。
 狐さん――フォックスは白鳩と無意味に接触することを好んだ。

「や、真戸ちゃん」
「出たな、フォックス」
「僕は誰も喰ってないんだから、可愛いものだろ」
「クズのたわごとなんぞ、聞く価値ないな」
「頭でっかちなじいさんだな」

 クインケは趣味の悪い武器だと思う。僕たちの力を奪って僕たちを殺そうとするなんて、恩を仇で返すようなものだ、なんてそれこそたわごとだけど。ついでに言っちゃえば僕は喰種ではないのだけど。

 喉の奥でクツリと笑うと、真戸の前に屈強な男が立ちふさがった。亜門だ。

「亜門ちゃんも久しぶり。また育ったね」
「貴様‥ッ!」
「僕が憎い? でもね、君たちもたくさん殺したろ」
「何の罪もない人間をも殺したのは何故だ」
「何の罪もない喰種をも殺したのは何故だ」
「喰種は生きているだけで罪だ」
「人間だって、命を摘む。そこにあるのは罪だよ、亜門ちゃん。奪う行為は等しく悪だ。人間も喰種も、同じように罪深い」
「‥」

「話を真に受けるんじゃないよ、亜門くん」

 横から助太刀した真戸に、はっとする亜門を見て、フォックスはクツリと笑った。これだから亜門は単純で好き。
 ここで力を出すつもりはなかったのだが、ちょっと遊んでやろうと思い立ち、尾を具現化した。狐の尻尾。喰種らしく振る舞っているから、尾赫っぽく。

「大切なのは自分で触れることだ。感じたことを信じるんだ。それはきっと正しいよ」
「私の後輩に変なことを吹き込まないでくれるかな」
「最近の若者は自分で考えるのが苦手だろ。いろんなことを経験した僕からのアドバイスだよ」
「いろんなこと? 人殺しか?」
「それを言うなら君らは動物殺しじゃないか。それに喰種が殺すことを快楽としているとして、僕が君たちを殺さない理由は何だ? 考えろ」
「クズのたわごとは聞くに耐えんな!」
「頭の固い老害はこれだから困るな」

 フン、と鼻をならすと、フォックスは真戸のクインケを体を捻るだけで避け、そのまますばやく懐に飛び込んで顎に拳を打ち込んだ。意識を飛ばした真戸に焦った亜門だったが、フォックスがとどめをさす様子がないことを不審に思った

「殺さないよ。言ったろ、僕は喰わない。喰うならやっぱり魚貝類が一番良いかな」
「‥俺の知っている喰種は‥」
「いろんなやつがいるのさ。人間と同じようにね」
「‥お前らと一緒に、するな」

 ‥話し合って分かりあえないなら、僕はどうすればいいの?


20141018

mae tsugi

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