「あ、夜久お前ちょっとこの資料運ぶの手伝ってくれないか」

「え、…は、はい」

「ちょうどいいところへ!東峰もこっち来い、手伝ってくれ」

「えっ、は、はい」


 バレー部へ向かう途中に先生に捕まってしまった上になにやら怖そうな見た目の先輩と同じ行動をとることになってしまった。
 怖そうな見た目の先輩は、東峰旭という名前らしい。ちなみに、見た目に反して中身はとても良い人のようだ。

 先生はどこかへ行ってしまったが、道は東峰先輩が知っているとのことなので、ありがたくついていく。


「俺の見た目、怖がらない一年生は君くらいだよ」

「怖がってほしかったんですか?」

「まさか!嬉しいよ、本当に」

「俺も人のことあまり言えませんけどね。髪の色、奇抜にするの好きなんです」

「そうなの?俺は、見た目からワイルドになろうかなと」

「形から入っても無理なものは無理ですよ?」

「うっ、意外と言うね…」

「でも俺は、優しいままの東峰先輩で良いと思います。変わろうとしなくても、東峰先輩は良いところがたくさんあります。それを捨ててしまうのは勿体無いですよ」

「…なんか、照れるな。ありがとう。…夜久、だったよね?」

「はい。それでは、俺、これからバレー部に呼ばれているので失礼します」


 バレー部という単語に反応した東峰先輩には気づかなかったふりをして、俺は体育館へと向かった。結構時間がかかってしまったが、まだ終わっていないだろうか。

 東峰先輩との出会いは俺にとって相当な収穫だった。なぜなら、同種のにおいを感じたから。


「すみません。ちょっと先生に捕まってて遅れました。夜久です」


 体育館へ入ってそう声をかけると、菅原先輩が駆け寄ってきて、すでにコートに入っている六人に声をかけた。
 月島たちの側にはがっしりとした人がいて、この人が俺の代理をしてくれていたのだと悟るとぺこりと頭を下げた。


「よし、じゃあ大地と夜久くん交替!」

「ほい、よろしく月島と山口」

「遅いよー!」

「悪い。東峰先輩って人と先生にパシられてた」


 「旭と…?」と呟いた後ろは気にしない。どうせ、東峰先輩もバレー部なのだろう。
 こちらを射抜くような目で見つめる飛雄に気づき、“お望み通りに”ヘラヘラと笑ってやる。


「じゃー、い」

「おい」

「…なに?」

「お前、ポジション違うだろ。なんでそんなに後ろにいる?」

「…気を取り直して、いくよー」


 絶望した。
 改めて、現実をつきつけられた。

『お前のことなんか、誰も見ちゃいねーんだよ』
 そう、言われた気がした。


「ッ、きょーれつ…」

「どうよ月島、惚れた?」

「…ばかじゃないの」

「そう言うわりにはこっち見てくれないじゃない」

「…そういうわけじゃ、」

「俺を一人に………いや、なんでもない。次、行くよー」


 なんでもない。
 俺のことは些細なこと。
 ーー“どうでもいい”、俺なんて。


「…なんっで、お前、及川先輩みたいなサーブ打てんだよ…」

「俺なんてまだまだだよ?ヤッダー飛雄ちゃんが褒めるなんて明日は雨かな」

「お前!」

「お前お前ってうるさい。俺は夜久結弦だ」


 存在を否定されたようで、怖い。


「…結弦、あのチビには気をつけて」

「わかってる。俺は彼の実力を誰よりも早く見つけていたからね。だから、油断はしない。失敗もしない。ボールはすべて俺が拾う。落とさなければ俺たちは負けないからね。信じてるから、信じてて」


 俺はくつりと喉を鳴らして口角をあげた。

 俺は、及川先輩のようになりたかった。


20130217

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