バレー部に入り損ねた問題児二人と対面したあと、バレー部副主将の菅原はおずおずと口を開いた。
 彼の頭には、緊迫したチームの中でもヘラヘラと笑っていたとある男子生徒の影が浮かんでいる。


「ねえ、大地」

「なんだ?」

「大会に出てた影山のチームメイトは入らないのかな?」


 問いかけると、大地と呼ばれた人物ーーバレー部主将である澤村大地はだんまりとした。何かを考えているように見える。
 菅原は答えを焦らせるようなことはせず、じっと待った。


「…その子が入るかはわからないけど、入ってほしいな」

「ね。でも、さっき会ったときは何か雰囲気が変わってたんだよね」

「?へえ、この学校だったのか」

「前に見たときは、なんて言うか…チームのムードメーカーみたいな子なんだなって思ってたんたけど、さっき会ったときの彼は真逆だった。能面みたいな顔してた」

「…やっぱり、無理していたのかもな」

「無理?」

「無理してチームのためにキャラを作っていたんじゃないか?見た限りでは、影山のチームの仲は良いようには見えなかったしな」

「…なんかそれ、悲しいな」

「…ああ。まだそうだと決まったわけじゃないけど、可能性は高い」


 ーー夜久結弦のポテンシャルは計り知れない。
 二人が知ることはないだろうけれど、昔、結弦の信頼する及川徹は彼についてこう語ったことがある。


『もし結弦が試合としてのバレーを好きになったらって考えると怖ろしいね。万が一そうなったら、もしかすると俺以上のプレーヤーになるかもしれない』


 菅原と澤村はどちらからともなく押し黙り、彼のことを考えた。


「…ねえ、その子、今度の3対3に呼ぶことはできないかな?」

「ああ、あの一年生同士にやらせるやつ?…まあ、無理なことはないだろうけど」

「一応声をかけておこうかな。クラスはわかるか?」

「クラスまではちょっと…」


 クラスまで聞いておけば良かったと菅原が後悔していると、後ろから声がかかる。この声は確か、問題児二人の他に入部する一年生だ。

 菅原と澤村が振り返ると、一年生ーー月島蛍はニッコリと笑った。


「僕、結弦とクラス一緒なんですけど、言っておきましょうか?」

「えっ、ああ、ありがとう。助かるよ」

「…僕としても、彼とバレーしてみたいっていうのもありますしね」

「おう。じゃあ、任せたぞ、月島」

「はい。でも、“バレー部”には嫌な思い出があるんでしょう、入らないって言ってましたから、つれてこれなかったらすみません」

「そこらへんは俺たちも把握してるから平気だよ」


 逆に、月島に感謝しているくらいだ。
 新学期早々三年生が一年生の教室を訪ねてくることは一年生にとってはあまり気分のいいものではないだろうから。

 それを聞くなり満足そうな表情を浮かべ、月島はくるりと踵を返した。

 絶対につれてきてやる、と心の中で静かに闘志を燃やしなから。



20130216

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