「おはよう、金田一」

「はよ、結弦。昨日は大丈夫だったか?急に出てったからみんな心配してたぜ」

「あー…」

「試合終わってから探しに行ったけどお前いなかったし」

「ごめん、倒れてた」

「なんだよ、倒れてたのか……っ、は?え、お前そんなに体調悪かったのかよ」


 心配そうな怒ったようななんとも言えない表情をした金田一に、俺はいつも通りヘラヘラ笑って応対する。
 飛雄と仲のいい俺とも仲良くしてくれる金田一は、思っているよりも人がいいのだ。


「今日登校しても大丈夫だったのかよ」

「うん。たまたま先輩が来てたらしくてね、看病してくれたから」

「先輩?」

「及川先輩」


 及川徹先輩は、飛雄にはめちゃくちゃ厳しいけど俺にはめちゃくちゃ甘い。これはもう北一バレー部周知の事実である。

 なんで俺、と思ったが、得をしていることに変わりはないので深くは追求しないでおいた。それに、俺としても先輩は好きだし信頼もしている。
 逆に言えば、今のところ信頼している人は及川徹先輩ただ1人かもしれないのだけれど。


「及川先輩来てたんだな」

「俺も試合中は見てなかったよ」

「結弦を見に来たんだな、絶対」

「そうだと嬉しいな」

「本当にお前及川先輩好きだな」

「うん」


 だって、バレー部に入ったのも及川先輩がきっかけだし。

 そう言ったら金田一はどういう反応をするのだろうか。言わないけど。
でも、それくらい俺は先輩に懐いている。尊敬もしている。性格は悪いけど、俺には優しくしてくれるから問題ない。


「そういえば、お前が出て行ったあと、コートヤバかったぜ」

「…ああ、あの小さい子?」

「そうそう!よくわかったな!コートの端から端まで一瞬で移動して、あの影山を振り切ったんだぜ?そのときの影山の顔は傑作だったな。ま、マグレだろうけど」

「へえ、ビデオに残してたりしないかなあ。俺も見たかった、飛雄の口開けた顔」

「お前がいたらそのチビのスパイクも返せたかもなー」

「あ、そうだ。言おうと思ってたんだけどね、」


 俺、バレー部やめようと思うんだ。

 いつも通り、ヘラヘラと笑って言った。
 金田一は一瞬呆けた顔をして、叫んだ。


「は?お前、やめんの?お前いなくなったら誰が影山止めんだよ!」

「金田一がんば!」

「絶対に嫌だ!え、マジで?もしかして昨日影山に怒鳴られたの効いたとか?」

「そんなんじゃないよ。たださあ、色々としんどいなあって思って」

「…確かに、お前に色々と任せすぎたかもしれないけどよ、いきなりやめるってのはどうかと思うぜ。それに、引退まであと少しじゃねーか」

「…ごめん」


 俺には謝ることしかできなかった。

 ーーそして、俺はバレー部をやめた。
 その後、風の噂(金田一)で北一が負けたと聞いた。

 少し、胸がちくりと痛んだ気がした。


20130214

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