「ね、結弦って俺のこと本当に大好きだよねぇ」 目を細めていやらしく笑う及川に、結弦は顔を真っ赤に染め上げた。その顔があまりにも官能的であったからだ。自分の魅せ方を完璧に理解している及川は、その反応に気を良くしてけらけらと笑う。 「良いの? 俺なんかを好きになって。結弦には飛雄ちゃんがいるデショ?」 わざと突き放したような発言をする及川はとても楽しそうだ。健気で従順で逆らわない。そんな結弦が愛しかったし、どこまで耐えられるか試してみたくもあったのだ。 「‥俺は、及川先輩以外は本当にどうでもいいんです。今及川先輩に飛雄を見捨てろって言われたらすぐにそれを実行出来る」 「いいね、やってみてよ」 「明日の部活で分かります。俺は、あなたのトスしかいらないんだ」 真剣な瞳で及川を射抜く結弦はある意味及川にとって恐ろしくもあった。危ういからだ。全て自分に委ねられるからだ。 次の日、及川はぞくぞくするような気持ちでそれを見ていた。 「おい結弦! 今のはどう考えてもとれただろ!」 ――飛雄のトスを無視する結弦の姿。 同じセッターだから、トスが無視される恐怖はよくわかる。結弦はいつもの貼り付けたような笑みを浮かべていた。 「ごめん、もう飛雄のパスは要らないんだ」 そして及川の方を向き、今度はうれしそうににこりと笑う。こいつはとんでもない、と及川は感じた。 結弦の力を100%に引き出せるのは飛雄ではなく及川だ。結弦であろうとなかろうと、それは及川の力。監督もそれを悟ったのか、そのあとすぐに結弦は及川のトスしかとらなくなった。 「‥結弦、こないだラブレターもらってたデショ。どうした?」 「破って捨てました。何で知ってるんです?」 「金田一が騒いでたから。で、心当たりは?」 「さあ。俺が誰かに好意を向けられるのは不愉快ですか?」 「そうだね、不愉快」 「分かりました」 結弦は、及川が好きだと言うわりには及川に何も求めなかった。虎視眈々と、腹の内では何か考えているようだが、口には出さない。 及川はそれがもどかしかった。自分のもののように独占欲は抱くが、無茶な命令にも従順すぎるくらいにこなしていく結弦が愛らしくてたまらない。 「‥今度、一緒に買い物行こうか」 「! ‥え、俺でいいんですか? 岩泉さんじゃなくて」 「岩ちゃんよりも結弦の方がセンスいいもん。あ、もしかしてヤキモチ?」 「‥すみません」 「何で謝るの、かわいいよ」 その言葉だけで幸せそうに顔を赤らめる結弦のなんてかわいいものか。こいつが俺のものなんて良いだろう。あげないよ。 20141229 |