「おっ。丁度始まりますよ!大地さん!スガさん!」 「おう」 「おー、元気なの居るな」 ーー北川第一中学 vs. 雪ヶ丘中学。 優勝候補と無名校との可哀想な試合は、約三名の心に小さな何かを芽生えさせた。 「北一!北一!北一!」 鳴り止まない声援を気にもせず、ただ怖い顔をして俺の隣を歩くのは、“コート上の王様”こと影山飛雄。 そして俺は、飛雄の相方とも言える存在。一応、ずっと一緒にバレーをやっている仲だ。飛雄はコミュニケーションをとるのが下手で、チームでよく孤立するから、その緩和剤をやっている。 「飛雄、顔怖いよ」 「うっせ。お前はいっつもヘラヘラしやがって」 「ほら、笑う門には?」 「………」 「福来る、って言うじゃない?」 可愛くない相方だけど、これは彼なりの照れ隠しだったりする。 いつもヘラヘラしている俺がこいつの前ではわりと真剣になるのは、きっとこの目があるからだ。妥協を許さない、ひたすら上だけを見つめる目。 飛雄の無茶なトスについていけるのは、このチームでは俺しかいない。 だから監督は必ず俺を使うし、俺も期待に応えようとする。 ーーバレーはそんなに好きではない。 向いているからやっていた。 飛雄が必要としてくれたからやっていた。 それだけ。 「…おい二年」 「?」 急に飛雄が口を開いたので、俺は視線をあげて辺りを把握する。目の前には他校生を笑っている二年生の姿があった。 飛雄の不機嫌の理由を理解した俺は、ジャージのポケットから音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを片耳にさした。正直、どうでもいい。 「公式ウォームアップ始まるぞ。早くしろ」 「スミマセン、すぐ戻りますっ」 飛雄に対して萎縮しているわりに小さな声で生意気なことを言っている二年生に、俺はちらりと視線をやる。「そんなに沢山つくっても飲まねーだろ。相手アレだぞ」本当に生意気。 「オマエら、ベンチにも入れないくせに、対戦相手見下せる程強いつもりなのか?」 「…俺も、今回ばかりはフォローしないよ後輩くん。北一の名前に乗っかってるな、サーブ顔面に叩き込むよ?」 「すっスイマセン!」 「…なんだかなあ」 すたこらと逃げていく後輩くんには悪いけど、その調子だと彼らはスタメンは無理そうだなあと考えていると、飛雄と他校生が真面目な顔をして言い合っていた。 …なんだか嫌な予感がするのは気のせいだと思いたい。 20130214 |