「君らが初日から問題起こしたっていう一年?」 一見爽やかな笑みを浮かべた少年はそう言ってヒョイッとボールを取り上げた。後ろに控えている少年は「ゲッ、Tシャツ!?寒っ」と驚いている。 ボールを取り上げられたことに対してムキになる相手を見て、爽やか少年ーー月島は「“小学生”は帰宅の時間じゃないの」と喧嘩を売る。なかなかの性格の悪さである。 「入部予定の他の一年…か?それとも助っ人の一年?」 「入部予定だよ。助っ人はもっと豪華だ」 「お前身長は?」 「ツッキーは188cmあるんだぜ!もうすぐ190cmだ!」 「なんでお前が自慢すんの山口」 「あっゴメンツッキー!」 お馴染みとなりかけている山口との掛け合いのあと、月島は“豪華な助っ人”の元相方へと視線を向けた。 「…アンタは北川第一の影山だろ。そんなエリート、なんで烏野に居んのさ」 「…あ?」 挑発は効果が抜群だったようで、影山が機嫌が悪そうに月島を睨んだ。 「明日は絶対!負けないからな!」 割ってはいる少年ーー日向の宣言に、月島は軽く返事をした。その落差に日向は訳のわからないと言った表情をしたが、それを知ってか知らずか月島は話し出す。 「君らには重要な試合なのか知らないけど、こっちにとっては別にって感じなんだよね。勝つ方が気分いいけど勝敗に拘り無いし、君らが勝たないと困るなら、手、抜いてあげようか?」 「なんだーっ!?」 「てめえが手ぇ抜こうが全力出そうが、俺が勝つのに変わり無えんだよ」 「ハハッ、すごい自信!さすが“王様”!」 「、オイその呼び方」 “王様”というワードにピクリと反応した影山に、月島は嬉しそうに笑った。 「本当だ!“コート上の王様”って呼ばれると、キレるって噂。いいじやん“王様”カッコいいじゃん!すごくピッタリだと思うよ“王様”!」 「…なんなんだてめぇ…」 “王様”を連呼する月島に良からぬ何かを感じ取ったのか、影山がキレるのを抑えて質問をした。 しかし、月島はそれを気にすることなく次の言葉を紡ぐ。 「…県予選の決勝見たよ。あ〜んな自己チューなトス、よく他の連中我慢してたよね。僕ならムリ。…ああ!我慢できなかったから“ああ”なったのか。ずっとお前についてきてくれていた結弦も、ホント可哀想」 グンッと。月島の襟首を掴み、何も言うことなく手を離す影山。 その脳内には、今もこびりつく“あの”記憶。 結弦が去って、チームメイトには見放された。 「逃げんの?“王様”も大した事ないね〜。明日の試合も、王様相手に勝てちゃったりして、………!?」 「王様王様ってうるせえ!おれも、居る!試合でその頭の上打ち抜いてやる!」 「…は?」 右手で弄っていたボールをとられた月島は、喚く日向に気分を害したが、すぐに冷静を取り戻して爽やかな笑顔を貼り付けた。 しかし、それもすぐに剥がれることになる。 「月島お前こんなところで会うなんて奇遇。山口も居るじゃん」 影山を素通りして二人の元へと向かうのは、先ほどちらりと話題にあがった結弦。 月島は少し嬉しそうな表情を浮かべ、山口は満面の笑みを浮かべた。 「…飛雄も、元気そうじゃねーか」 「…おっ、おう…。結弦も、相変わらず」 「ヘラヘラ笑ってる、って?笑ってないよ、コレ。まあ、明日楽しみにしてるよ」 結弦の目が笑っていないことに気づいたのは月島ただ1人だった。 20130216 |