守ってくれるから
「君がタケの……」
「え、なにこわい」
一人で留守番中にインターホンが鳴ったので、はいはーいと出て行くと、男の人が私を無表情で観察し出した。そりゃこわいって思わず口に出しますわ。
しばらくお互いに膠着状態にいると、タケさんが珍しくバタバタと急いでやってきて、「有馬さん、急に家に来るなんて聞いてないですよ」と疲れたように言った。息も絶え絶えだ。
「…とりあえず、上がります?」
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この変な人は有馬さんと言うらしい。CCGの特等、つまりとても偉くて強い人だと言う。タケさんとパートナーを組んでいたときもあったと聞いて、タケさんも苦労してるんだなあと思った。
「全然似てないね」
「そりゃ兄妹でもありませんし」
「…それもそうか」
天然だ。有馬さんめっちゃ天然だ。
タケさんの淹れた珈琲を飲みながら、なんでこの人ここにいるんだろうと思った。偉い人なのに暇なのかな。
「君、格闘技か何かやっているの?」
「え、何でですか?」
「立ち姿がとても綺麗だから」
「……、あの、普通に照れます」
しれっと言ってのける有馬さん!そこに痺れる!憧れるゥ!…じゃなくて。
「格闘技…ではないですね。バレエをやってました」
「へえ。運動神経が良さそうだね」
「有馬さん、そこらへんにしてください」
タケさんが少し不機嫌そうに止めてくれた。私としても心臓に悪い会話を続けるのは良くなかったのでありがたい。
どうやら有馬さんはタケさんに書類を渡すのを忘れたらしく、家まで届けに来てくれたらしい。何で居座った。タケさんはため息を吐きながらも受け取っていて、マイペースな上司を持つと大変だとしみじみ感じた。
「タケが君のことばかり話すから気になってたんだ。話せて良かった」
「ちょっと有馬さん」
「じゃあこれで」
「さようなら」
スタスタと帰って行く有馬さんを見て、有馬さんの方がよっぽど立ち姿が綺麗だと思った。凛として儚げな背中。空恐ろしくもあった。
有馬さんが帰ったあと、タケさんは少し脱力したみたいだ。彼の後ろに回って肩を揉んでやると、彼はぽつりと呟いた。
「…なまえがCCGに来てくれたらなァ」
「タケさんがコネで入れてくれるならね」
「確かに馬鹿だもんな」
「お黙り」
「アカデミーに通うのはどうだ?」
「せっかく大学入ったのにやだよ」
「ま、危ないことに巻き込むわけにはいかないか」
わりと本気で考えていたらしい。そんなことをしなくても、家に帰ったら会えるのにね。よっぽどCCGは辛いのか。先ほどの有馬さんを見ている限りでは精神的苦痛がひどそうだ。
タケさんは基本的に真面目な人である。文句を言いながらもやることはきっちりとやるし、無茶な要求も対応してくれたりする。あ、もしかしてだから有馬さんと組んでいたのかな…。
ぐでーっと寄りかかってくるタケさんは相当疲れているのだろうか、珍しい。背中に手を回してぽんぽんと叩いてやると、肩に顔を埋めてきた。幼児返りかな?
「……なまえが心配なんだ」
滅多に漏らさない彼の弱い部分に、目を見開く。本当にどうしたのだろう。そこまで子供なつもりでは、ないのだけど。
「タケさんが守ってくれるでしょ」
でも、甘えてしまうのは悪いことだろうか。子供なふりをしてはいけないだろうか。だって、タケさんは絶対に私を守ってくれる。
その答えに微かに笑ったタケさんは、とても大事なものでも扱うかのように私の頭を優しく撫でた。
20150115