久しぶりに電車なんて乗ったなあ、なんて思いつつも私は先ほど買ってきた駅弁に手をつけた。何故私が電車に乗っているかというと、急にパリストンから連絡が来たからだ。×××市に来てほしい、と。イルミにはなんとなく内緒にしておきたくて、買い物と偽った。 久しぶりにパリストンに会える。 そのことがこんなに楽しみなことだとは思わなかった。なんだかんだで私はパリストンのことが好きなのだろう。 「久しぶりですねぇ、名前さん」 「久しぶり、パリストン。急にどうしたの?」 「率直に言います」 いつも通りニコニコしているからわからなかった。パリストンは今すごく機嫌が悪い。 「最近一緒に住んでいる男は誰ですか?」 後ろめたさがなかったわけじゃなかった。パリストンが帰ってこないから、と理由をつけたりしてみたが、これは本来恋人がいる人間がとる行動ではないことくらいわかっていた。それでも気づかないふりをしていたのは私が弱いから。 「………」 「誰ですか?」 隠すことは出来ない。私は覚悟を決めた。「イルミ=ゾルディックです」彼は最初から知っていたのだろう、表情一つも変えないで私を見つめている。 「…ごめんなさい」 「何で謝るんですか?何か疚しいことでもあったんですか?」 「ないよ!…何でそんなことばっかり言うの?私に他の誰かを好きになって欲しかった?私が邪魔だから誰かに押し付けたかった?正直に言ってよ。私、我慢したよ。たくさんたくさん待ったよ。重かった?」 「そんなことありませんよ!私は誠心誠意真心込めて名前さんを愛しています。確かにずっと家に帰れていませんが、それは名前さんを信頼しているからです。名前さんなら浮気をしないだろうという」 「そして自分は他の女の子と楽しくお話?ふざけないでよ。私、すごく悲しかった」 「!…どうしてそれを?」 「イルミから聞きました。本当のことを言って?パリストンは私のこと好き?愛してる?」 「好きです、愛しています」 …うん、なんかやっぱり言葉だけでは満足出来なかった。 わかってるよ、パリストンがこういう人間だってこと。でも、私だけになら特別になってくれるって思ってたんだ。はあ。ため息。 瞳から涙が溢れ落ちた瞬間、パリストンの周りの空気が一瞬ピリリと緊張した。 「ねえ、何泣かせてるの?」 「部外者は引っ込んでくれませんか?イルミ=ゾルディックさん」 これは私に向けられた言葉ではない。いつの間にかイルミが私の前に立っていた。勘の鋭いイルミに隠し事なんて無理だったか。 イルミは相変わらずの無表情で、何を考えているのかわからなかったが、私を心配してくれたことだけは確かなんだと思う。だって、私を背中に隠す手は優しさを隠そうともしないもの。 「名前には世話になってるから、泣いていたら放っておけないんだよね」 「天下のゾルディックともあろうお人が、惚れましたか?」 「オレは幸いにしてまだ恋をしたことはないけど、好きな人が出来たらこんな感じなのかなとは思うよ」 「でも、残念。名前さんは私の恋人ですよ」 「だから?キミはただ名前を泣かせるばかりじゃん」 「それでも彼女は私を好きなんです」 「もうやめて!」 耐えられない。 「確かに私はパリストンが好きだよ。でもね?私にだって感情がある。寂しいとか悲しいとか苦しいとか、もうたくさんなの。こんな思いをするためにパリストンに告白したわけじゃないの」 もう、別れようよ。 20111223 prev next back |