中編 | ナノ


「臨也がいない?」


新羅から知らされたその情報に私は耳を疑った。どうやらマンションも六日前に解約されていたらしい。

六日前。それは臨也が中野さんを家に招いた翌日で、私が幽くんと池袋へ出掛けた日。
もしかしたら私絡みかもしれない。いや、絶対に私絡みだ。じゃなければ臨也が新宿から出ていくなんてことはあり得ない。だが、なぜ?


「少し調子に乗りすぎたんじゃない?」
「…思い当たる伏がないこともない」


幽くんとホテルはまずかったか、なんて今さらながら後悔。
私はいつも遅すぎるのだ。

臨也がそばにいないと調子狂う。何でいないんだよ。私を愛しているって言ったじゃない。私、おろかにも信じたじゃない。


「番号、変えてないかな?」
「うん。でないだけ。ということは静雄は捨てるの?」
「捨てるなんて人聞きの悪い、解放してあげるのよ。私という檻なんて、窮屈で仕方ないでしょ?」
「その檻に自ら入ったバカが3名ほどいるけどね」
「3名?」
「うん」


はて、臨也と静雄と、あとは誰だろうか。まあ私には関係がない。嘘でもいい、錯覚するんだ。

私は黒いジャケットを掴み、新羅の家を後にした。携帯を片手に持ち、昔から打ちなれた番号を入力する。


「……もしもし?」


綺麗なアルトがとても愛しい。





▽▼▽





京都にいると聞き出したので私も全財産を持って京都へ向かった。新宿には家を持っていなかったからそういった心配はしなくて済んでラッキーだ。

新幹線に乗ると、京都駅までヘッドフォンをつけて目を瞑った。途中、変なオニーサンに声をかけられたのでガン無視からの背負い投げをしてやった。
私は今、早く臨也に会いたくて仕方がないんだ。

そうだ、私は臨也が大好きだ。
でも、臨也を信じることが出来なくて。

確かに精神崩壊して自殺を謀ったこともあった。だが、それは臨也が嫌いだからじゃない。
臨也が好きすぎたから。


「着いた…!」


臨也はどこだ。京都駅にいるって言ってたけど、人が多くてわからない。必死に目を凝らした。「臨也!!!」初めて本気で彼を呼んだ。彼が欲しいと思った。彼じゃなきゃダメだと思った。


「名前!!!」


その声に勢いよく振り返るとそこには泣きそうに微笑む臨也がいた。何で泣きそうになってるんだよ、無理して笑うなら泣けよ。私は君にたくさんひどいことをしてきたのだから。



今までごめんね、大好きだよ。

他でもない、臨也が良いんだ。

失いかけて初めて気付いた。

人間はみんな代替品だと思ってた。けど、違うんだ。





臨也の代わりは臨也にしか出来ない。





「………ねえ、私の隣にあった空白、知らない?」






私たちの時は今、やっと進み始めた。






20110822
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