中編 | ナノ


なんとなく気分が落ち着かなくて池袋へ行くと、名前の姿が見えた。男と一緒にいるようだったけれど、男の顔はよく見えない。悲しそうに笑う彼女だけしか見えなかった。

慰めなきゃ。

衝動的にそう想ったが、はっと思いとどまる。さっき伝えたばかりじゃないか。君を好きでいるのはもう疲れた、と。今さらどうしようと言うのだ。


「確かに俺も悪いけどさ」


美里ちゃんを家に招いたのは俺に非がある。だが、彼女はそれ以上のことを俺にしてきただろう?昨日なんか羽島幽平とホテルに泊まったなんてぬかして。わざわざ連れにシズちゃんに近い人間を選ぶなんてタチが悪い。

だけど、好きで好きで仕方なくて。
諦めることなんて出来るはずがないだろう。


「臨也さん、どうしたんですか?」
「………」
「ねえ、臨也さん!」
「あ、ああ…ちょっと考え事をね」
「もしかして名字さんのことですか?」
「…………」
「あんな人、好きになるだけ無駄ですよ。私、人を見極めるのだけは得意なんです。あの人はあまりに卑怯すぎます」
「………」
「可愛くもないし性格よくもないし何か使えるわけでもない。あんな女のどこが…………キャッ!」
「あまりさあ、名前の悪口言わないでくれるかな?俺にしてみれば、人間全員が名前の代わりなんだから。いや、人間全員合わせても名前には敵わない。わかったかい?中野美里、君と名前は格が違うんだよ」


イライラする。名前のことはもう関わらないと決めたのに口が勝手に動いていた。言わせておけばいいのに。

俺と美里ちゃんとの間には騒ぎを聞き付けてか人だかりが出来ていて、俺はもうその場にいるのは嫌で、人の群れを押し抜けてその場から抜け出した。



悲しそうに笑う君、
どうしたら笑ってくれるの?

彼女に笑顔をもたらすのは俺だと良いのだけど、また昔のように彼女を傷付けたくないから。

そうだ、俺がいなくなればいいんだ。
彼女の前から姿を消したらほら、きっと彼女も笑顔になることだろう。

行き先は、そうだ。京都がいい。彼女が前にいた場所だ。さっそく引っ越しの準備をしよう。


「さよなら、名前」


――愛しているよ。




20110821
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