「今すぐ警察を呼ぶのかそれとも2度とこのようなことをしないと誓いをたてて平穏に過ごすのか、さあどっち?」 中野さんのストーカーにそう詰め寄ると、彼は狂ったように叫び始めた。 美里は俺のなんだ!美里だってそれを望んでいる!俺と美里は互いになくてはならない存在なんだ! ――つまらない。 私はもう一度ストーカーを踏みつけて地面にキスをさせると頭を掴み、笑顔で口を開いた。 「醜いね?」 ああ、人間の剥き出しの感情とはなんて醜いことだろう? 私も人のこと言えないけどね。 「人間は相手の気持ちを思いやってこそだよ。それを、自分の気持ちしか考えない君は人間失格。あはは、つまらないね君。泳がしておく価値もない。今ここで死んでおくのも悪くないと思うけど、どうする?」 「お前なんかに俺の愛は止められない…!」 「ふぅん」 私は頷くと携帯を取り出して記憶している番号を打ち込む。 ふふ、臨也はいやがるだろうなあ。 「あ、幽くん?出来るだけマスコミ引き連れて新宿まで来てくれない?うん、散歩してるみたいな感じで。うん、うん、ありがとう。じゃあ待ってるからー」 ちょうど新宿に近いところにいるらしく、あと10分ほどで着くらしい。 さあて、もう少ししたら挑発でもしようかな。 無力な女の子に乱暴するオッサンを華麗に撃退する羽島幽平くん。かっこいいねえ。私は明日の朝刊を思い浮かべながらニタリと笑った。さて、そろそろか。 「ねえ、一方的な愛の押し付けって何よりも気持ち悪いと思わないかい?」 わざと拘束を弛くしてみれば、男はすぐに抜け出してくれた。そして私を壁に押し付けると「形勢逆転だ」などと嬉しそうに呟く。 さあ。 私を殴ろうと右腕を振り上げた男が本日二回目の情けない悲鳴をあげた。 「…なんだ、こういうこと?」 幽くんが呆れたように言うと、私は被害者ぶって幽くんに抱きついた。 こわかった。なーんて、思ってもみないことを言ったりして。 パシャパシャ。 シャッター音が鳴り響き、男の証拠写真が撮られた。これでこいつは犯罪者のレッテルを貼られたな。内心ほくそ笑みながら私は幽くんが男を殴るのを見届けた。男はノックアウトされるとマスコミの方々が呼んだ警察に事情徴収をされるらしい。ざまあみろ。 「あの、助けてくれて本当にありがとうございます…!」 「……ああ、うん」 「良かったら何かお礼させてください!そうだ、そこのカフェでも」 「わかった、行こうか」 幽くんは私の二面性を知っているからこうしたことも普通にできる。 幽くんに腕を絡めながらマンションを振り返るとベランダから私たちを恨めしそうに睨む臨也がいて、私はまたニタリと笑った。 20110821 prev next back |