「っひゃー、池袋ってやっぱり人多いっすねー」 「おいパンツ見えんぞ」 「やだ静雄のえっち」 「殴るぞ」 「あはは」 でも、私は知ってるよ。君は私を殴れない。 うふふ、なんて笑いながら私は人通りの多い交差点を駆けた。静雄がため息を吐きながらついてきているのを確認すると、私はまた一層笑みを深くした。 私は中学生の頃にとある理由で一度入院生活を送っていた。そこで静雄と会ったのだ。 初めは入退院を繰り返すおかしな人だなとしか思っていなかったのだが、私が静雄の落とした生徒手帳を拾ったことからよく話すようになり、ついに毎日お見舞いに来てくれるまでの仲になったのだ。 静雄は私のことをよくわかってくれたし、私も静雄のことなら誰よりも知っているつもりだった。 ただし静雄の知らない重大な過去を私は持っていた。私がここに入院していた理由。それは。 「――名前?」 「臨也くん、久しぶりー」 折原臨也の異常なほどの私への執着心。 "折原臨也"のことは静雄からよく話を聞いていたし、二人の関係性も充分よくわかっている。 静雄は私と臨也が顔見知りだったことに驚いていて、臨也は私と静雄が並んで歩いていることに不快感を露にした。 だがしかし臨也もそれなりの礼儀を持っていたらしく、苛立ちを抑えて私に謝罪をした。あのときの謝罪だ。 「ずっと謝りたかった。君にはたくさん辛い思いをさせてしまったね」 「いーよ、そんなもの。私、ちっとも気にしてない。今はもう元気だし、私が元々悪いんだからお互い様だよ」 「…そっか。池袋は初めて?」 「わかっているくせにわざわざ聞くの?"新宿の情報屋"さん?どうせ、私が今までどこで何をしていたかなんて筒抜けなんだろ?」 ニタリと意地の悪い笑みを浮かべてやると、臨也はきれいに苦笑した。いつ見てもこいつの笑みはきれいにしかならない。醜く歪んだりなどしない。それはもう、昔から変わることはなかったようで。 「静雄、行こうか。帰ったらご飯作らなきゃ」 帰り際に静雄を睨んだ憎悪の表情さえも、ゾッとするほど綺麗だった。 20110815 prev next back |