四木さんに掃除の依頼をされたのはいいものの、私は困り果てていた。なんと、掃除をするターゲットはサイケデリックを作ったあの業者だったのだ。私としては掃除しても構わないのだが、サイケデリックがどう思うか。 家に帰っても中々言い出せなくて(私だけが)ギクシャクしているその時だった。サイケデリックはおもむろに立ち上がり、私を見た。 「僕、頭も顔もいいけど耳もすごくいいんだよね」 「…ああ、」 その一言でサイケデリックの言いたいことは全てわかった。私が言うか言うまいか迷っていたことは全部聞かれていたということか。 でも、それならば話が早い。 「じゃあ、サイケデリックはどうしてほしい?」 「あいつらは汚い私利私欲で僕を利用しようとした。どうなろうと僕の知ったことじゃない」 「おっけ、ありがとう」 それじゃあ遠慮せずに掃除することが出来る。 「僕はある目的があって、こうしてわざわざ君に売られた」 「目的?」 「それは―――」 答えを聞くと私は特に反応も見せず、いつものように真っ黒のワンピースに身を包み、夜の闇に溶けていった。 ▽▼▽ 池袋とは誠に不思議な街で、何故か噂が回るのがとても早い。 例えば新宿の情報屋に似ている人物がいた、という情報なんてもう本人に回っていたようだ。 「こんばんは、折原さん」 「こんばんは、名前ちゃん」 しかも、私の名前まで調べてあるとかなにそれこわい。 サイケデリックとは違う、ニヤニヤとした悪意を隠すことのない笑みを浮かべながら折原は私に近づいた。 「昼間、俺にそっくりな人間と歩いてたんだって?誰なの?」 「君に答える義理はないよ」 「あっそう。でもこれはお願いじゃない、強制だ」 言い終わると同時に飛んできたナイフをひょいっと避けると、私は足につけていたホルダーからアイスピックを取り出した。 悪いが、私は男相手であろうと負けるつもりはないのだ。弱くては掃除屋なんて務まらない。 「悪いけど私これから用事あるの。あまり手間かけさせないでくれる?」 「君が質問に答えてくれたらね」 何度も降り下ろされ続けるナイフを私はアイスピックを使いながら避け続ける。折原は「何故当たらない」とでも言いたそうな表情をしていた。 なぁに、君が弱いからだよ。 折原のナイフを避け続けながら、私は出かける前に聞いたサイケデリックが池袋に来た目的を思い出していた。 「僕はある目的があって、こうしてわざわざ君に売られた。 ――折原臨也に成り代わるためだよ」 20110810 prev next back |