走り出したのはいいものの、私はユーリさんの居場所を知らない。さてどうしよう。 いつもヒーローの集まる建物の中で呆然と立ち尽くしていると、誰かが立ち止まった。私は俯いていた顔をあげると、そこにはイワンくんがいた。なんとなく気まずくて、私は顔を背ける。 「名前さん、」 「………」 「ペトロフさんなら、街の方にいます」 「!」 「ごめんなさい、僕なんかが」 「ありがとう。イワンくん、大好きだよ」 走りながらそう言うと、私はとりあえず玄関に向かった。そして、そこでもまた誰かに声をかけられた。 「名前、頑張れよー!」 「応援してますよ、名前」 「おじさん!バーナビー!」 というか何故みんな私の事情を知っているんだ。不思議で仕方ない。そっとしておいてくれよ。 でも、モノクロームパレードの色恋沙汰なんて滅多にあるものじゃあない。要するにみんな、暇なのだろう。 玄関を出て辺りを見渡すと、突然頭に痛みが走った。 『なあ、お前は何人殺した?殺戮者――モノクロームパレード』 「うぁ…っ!?」 フラッシュバックする記憶に思わずよろめく。そうだ、私は人殺し。殺した数は両の手を合わせても数えられない。 「ダメだ、私は…」 死ぬべき人間なのに。 ダメだよ、私なんかが人と交わろうだなんて。私は生きてるだけで罪深い人間。周りにいる人間を不幸にしてしまうから。 私は一体何をしようとしていたんだ。何を血迷っていたんだ。 今からでも遅くない。止めよう。 そうしようとしたのだが、ふと、ジャックと目があった。咎めているような目だった。 「あなたは俺に"楽しい"ということを教えてくれた。俺を救ってくれた。そんなあなたが1人で生きるなんて、おかしいだろ」 「私は偽善者だから…」 「かっこつけんなよ、あんたは何と言おうと紛れもなくヒーローだよ。俺にとってのヒーローはあんたしかいねーんだよ」 「…ただの力をもて余した殺戮者だよ」 「それでもたくさんの人を救ってきた。なあ、逃げんなよ、幸せから。あんたは確かに人殺しだ。だが、それも、誰かを助けるためなんだろ?まあ殺しはやり過ぎだと思うがな、これからやめればいい」 「………」 「行ってこいよ、ヒーロー」 「…うんっ」 そうして街に繰り出そうとしたら、また、人が、私に、近づいて、きた。私は、驚いて、見上げると、不健康な、あの人の、真剣な、顔。 「ユーリさん」 私はもう逃げないよ。 20110728 prev next back |