人のふこうはみつの味だし、人のことばを真に受けてだまされてひがいしゃづらするやつはただのバカだ。そんなことを考えているひねたガキの俺は、とある男子に目をつけていた。名前はみどうすじあきら。なにをやらせてもできなくて、バカにされてもうつむいてだまっているような、くらいやつだ。いじめっ子であったおれは、そいつをいじめることにした。見ていてむかつく。言い返せばいいのに泣きそうなかおをしてうつむくところがきらいだった。 「なあ、おまえ、飛び箱も飛べねーの?」 「‥」 ほら、だんまりだ。もじもじと何かを言いたそうにしていても、口にしなければ意味はない。 みどうすじをいじめてるやつは他にもいたが、おれはみどうすじに向かうときは大体ひとりだった。ひとりが好きだっていうのもあるが、なんとなく、みどうすじと話すのは静かなほうがよかったからだ。もしこいつが話したとしてもまわりがうるさかったら聞こえない。 いつまでも話さないみどうすじにむかついて、おれは右手でみどうすじのあごをつかみ、目線を合わせた。 「おれが話してんだろ? ちゃんと目を見ろよ」 「‥名字くんの目、こわいんや‥」 ようやく発されたことばによろこぶよりも先に、むかつきが勝った。ようやく話したと思ったら、こわいだって? 「どこが」 「そやって真っすぐボクを見とるとこ‥」 「‥おまえ、そんなんだからいじめられるんだよ」 「‥ええよ、どうせ飛び箱飛べへん‥」 もじもじ。もじもじ。おまえはもじもじくんか。 大きくて丸い目をせいいっぱい反らしながら、あきらめたようにみどうすじは言った。ああほら、そんなんだから。 あごをつかんでいた手をそのままに、おれはかおを近づけて無理矢理みどうすじの視界に入った。 「ちゃんと人の目を見ろ。ハキハキ話せ。おまえのそのたいど、イライラする」 「‥やって、こわいんやもん」 「こわくねーよ。おまえが勝手にビビってるだけ」 「うそや、名字だってボクをいじめるやろ」 「そんなビビってるからいじめたくなんだよ。もうちょい堂々としてりゃいいのにバカだな。飛び箱飛べなくてもだからなんだよって話」 もういじめる気分じゃなくなってしまった。 おれはみどうすじのあごをつかんでいた手をはなしてくるりとその場を去った。 ほんと、堂々としてりゃいいのに。バカなやつ。 おれがみどうすじをいじめる理由なんて、反応がおもしろいからってだけなのに。他のやつらもきっとそうだろう。 ひょろひょろの体に長細い手足。 見るからにもやしっ子だが、小学生ならそんなやつは山ほどいる。飛び箱を飛べなくてもなんてことない。 そんな理由でみどうすじをいじめるやつは、それこそ本物のバカだ。ザク決定だな。 20140318 next back |