「おや、私に何か用かな?」 「話があるのだけど…良いかしら?」 「悪いけど、用事があるんだ」 「少しで良いのよ、ルシウス」 貴族というものは厄介だ。 このやりとりにももう飽きた。 純血でもない貴様が私の名を呼ぶな。 思わずそう口走ってしまいそうになった瞬間、私の後ろから綺麗なソプラノが聞こえてきた。彼女の音はいつだって私を惹き付ける。 「ルシウス。お取り込み中悪いんだけど、教えてほしいことがあるの。来て」 「そういうわけで、話があるならまた今度」 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべてやれば、こいつはもう何も言えない。 おそらく助けてくれたのであろう彼女に礼を言うと、「なんのこと?」と惚けられてしまった。けれど、私は知っている。彼女は私に教えてほしいことなんて一つもないことを。 彼女は何にも関心を持たない。 ――闇の帝王以外には。 ひたすら闇だけを見つめる黒が似合う彼女。 「嫌なら断ればいいよ。どうせ、ルシウスなら大丈夫」 「貴女が手に入るのなら喜んでやりますけど」 「冗談下手だね」 「本気ですよ」 20121028 prev next back |