ひとつの運命の元で眠る僕ら
夜の少女――リヒトはとても美しく成長した。しなやかな体躯はほっそりとしていて男たちの庇護欲を煽ってやまなかったし、あまり感情を表に出さない顔はまるでよく出来た人形のようだと男たちは絶賛した。
リヒトは自由に生きたかったのに、皮肉にも少女のその浮き世離れした見た目がリヒトを縛り付けてしまっていた。
そのせいか、リヒトはディオとジョジョとジョージ以外の男と呼ばれる全てを寄せ付けたがらなかった。かといって、愛想の無さから同年代の女子ともあまり交流も出来ず、リヒトはいつもジョジョに心配されていた。そのジョジョはと言えば明るく大学の人気者であったので、リヒトの評判はあまりよくないものとなってしまっていた。それに加え、ディオは前にもましてリヒトを傍に置くようになったことにより、嫉妬の視線が向かうことが多々あったが、ディオの真意をジョジョは察することが出来なかった。
「決めたわ、ジョジョ」
「何をだい?」
「私、大学を卒業したら旅に出る」
「そんな、危ないよ! リヒトは女の子なんだから」
「護身術なら教わってきたし、念のために射撃の訓練だってしたわ」
「でも、万が一のことがあったら」
「‥ジョジョは考古学の研究をしていたわよね。それなら一緒に来ればいい話でしょう?」
「‥君は、僕が反対しても行くんだろう?」
決して短くはない付き合いの中で、ジョジョはリヒトの性格を把握していた。元々妹が出来たと喜んで必要以上に構っていたのも一因かもしれない。
リヒトは頑固だ。それが、この付き合いの中で、ジョジョが分かったことだった。
「私は自分が何者なのかを知りたいの」
「‥分かったよ。君に付き合うから、絶対に一人で旅になんか出るんじゃあないぞ」
妹に限らず、他人に甘いジョジョだったからこそ、リヒトは絶対に許してくれるだろうと踏んでいた。そして実際に許してくれたのだから、リヒトはこくりと頷いた。
リヒトは自分に一人で旅を出来る力があると思っていた。護身術は大抵のものは習ったし、射撃の訓練は教師に褒められたくらいだ。それに、もう貧民街にいた頃のリヒトではない。大の大人が向かってきてもどうとでも出来るという自信もあった。
しかし、リヒトはジョジョの同行を認めた。ジョジョの反対を押し切ってまで一人で行くのも本意ではなかったし、何より心配をかけたくなかったのだ。
その姿勢をよく思わなかったのはディオである。
せっかく貧民街から連れ出したのに、それらしい野心を見せやしない。一番の金持ちになりたかったディオとは別の存在だった。
リヒトをここへつれてきたのは他でもないディオで、何故か放っておけなくて一緒に来たのだが、あまり期待していた働きをしていなくて失望していた。
この調子ならば、毒にも薬にもならないだろう。少女はぬるま湯に浸った甘ちゃんだ。ディオはリヒトをただの愛玩動物として扱うことに決めた。リヒトはとても見映えが良かったから、ディオの傍に置いておくのに相応しいと思ったから。
「――次はフェンシングを習いたいのかい?」
少女が着実に牙を研いでいるのも知らずに。
20140808